第28話 ラスボス

「本題なんだがよ」


色々聞きたいのはこちらだ。

オーベルの方は罠も無し、屍人一体に

胎児状態の魔王を抱えている。

戦意も見受けられない。


いつでも倒せる状態だ。

ヨハンはその前に質問をした。


「その予言者様は結局

何が目的だったワケだ?」


「予言者のぉ・・・・

予言者とは何かを知っておるかの?」


返事はせずに頷く三人。


「いずれもこの目の持ち主じゃ」


そう言うと。

おっさんの目が黄色に輝き

瞳の虹彩が何やら文字になっていた。


「川の中に立っている。川の流れが時間じゃ

皆、目は見えず流れる水に打たれておる。

予言者だけは見える。上流から

流木が流れて来る。ワシらは避けられるが

見えない者は流木に打たれ己が運命を呪うわけじゃ」


聞きたい事に答えていないが

何かを説明するつもりだ。

ヨハンは続きを待った。


「ところが当たらずに脇をすり抜ける時もある。

その時はとたんに嘘つきよばわりじゃい

見えぬ者にはギリギリの所で回避出来た

事実を認識すらできんのだ」


声のトーンを一段落として

オーベルは続きを語った。


「魔界とて同じよ。ワシの言葉を

信じる者は少ない。どれだけ説明しようとも

誰も信じなかった。ビルジバイツ様の

生存を、誰も力を貸さなんだ

人間界に封印された魔王救出に」


目が座るオーベル。


「だから一人でやるしかないわ

主を助けずして何が家臣じゃ

何が魔神将じゃ

神であれ魔王であれ

人間であれ、例え何万人を犠牲にしても

間違いなく必ず助け出す。

ワシだけはどの世界においても

ワシだけは決してあなた様を見捨てませぬぞ」


オーベルの上の胎児

大事そうに抱えられていた。


「目的は前回の魔王の救出・・・か」


その胎児をじっと見るヨハン。

生きている様には見えない。


「で、封印はこれから解くのか」


仮死の赤子の状態に封印されていると

思ったのだが、返事は予想外だった。


「・・・解いた。これが今の

ビルジバイツ様じゃ」


ただ封じ込めるだけの封印では無く

ビルジバイツの力を毒として放出し続ける

仕掛けだったそうだ。


100年以上にも渡る力の搾取によって

今のビルジバイツは赤子以下の存在だ。


「・・・生きてんのか、それ」


声はおろかピクリとも動かないのだ。


「人間の常識になぞらって言えば

死ぬ寸前の状態じゃ。

悪魔の常識でいえば存在の力の消失前の

状態じゃ、ここで消えるか

ゲート通過の際の負荷で消えるか

もうその二つしか無い・・・・

助けに来るのが遅すぎた。」


罠を仕掛けるものもちろん

戦意などあるハズが無い。

オーベルの策は最後の最後で

いや

最初から失敗だったのだ。


「煮るなり焼くなり、好きにせい」


オーベルはそう言った。


「まて、ちょっと確認したい事がある

その膝の上にいるのが魔王の全部なんだよな」


「全部・・・とは?」


ヨハンの言わんとしている事を察したゲカイは

すかさずデビルアイを起動させ地面を走査し始めた。


「じゃあ、足元から感じている

この悪寒、嫌な感じは誰の何だ」


魔王を目の前にしても

あの嫌な感覚は消えていなかった。

だから

これから封印を解くのかと

ヨハンはそう思っていたのだ。


「ビルジバイツの力は全て毒の霧に

なったんじゃない。一部だ。

残りはまだ下・・・に・・」


ゲカイのセリフを遮るように

地鳴りと地震が同時に起こった。


「デケぇ!!地震・・・か」


転がらないように手を着くヨハン。

ストレガはすかさず浮遊し難を逃れた。


「違う。立ち上がるつもり」


何が

ゲカイの台詞に、そう聞こうと思ったヨハンだったが

その前に答えが顔を出した。


魔法陣の中心、オーベルのすぐ後ろに巨大な顔。

例えるなら、ハエの顔に酷似していた。

ただ大きさが尋常では無い。

顔だけでも人の背丈より大きかった。

それが地面を割り、土砂を飛ばしながら

文字通り顔を出したのだ。


「なんじゃこりゃああああああ」


ヨハンは虫が苦手だ。


「おぉこれこそはビルジバイツ様が

生成・使役されなさる疑似魔法生命体」


解説をするオーベルに向かって

ハエは口と思われる箇所から何かを吐き出す。


霧の様な液体の様なブレスだ。


被弾したオーベルの下半身は

見る見る溶けだし骨が露出した。

鼻を突く強烈な刺激臭

これは酸だ。

自身がそんな状態にも関わらず

オーベルは魔王を落とすまいと

バランスを取っている。


咄嗟だった。

追って来た敵なのにヨハンは

オーベルを抱えて後方に飛びのく

ブレスの効果範囲から出るのだ。


入れ替わりの様に

ストレガが割って入り左手を翳した。


射出とブレスは同時だった。


「えッ?!」


ストレガ自慢の鉛弾は全て

ブレスで殆ど溶かされてしまい

命中したものの殺傷力は皆無になっていた。


ブレスはそのままストレガを襲う。


「逃げろ!金属を溶かすぞ」


ヨハンの叫びに答える様に

踵から炎を噴射に後退するストレガ。

間一髪で酸を浴びずに回避出来た。


ブレスから身を隠せる物が無い

開けた場所は不利だ。

撤退を判断するヨハン。


「ここじゃ不利だ城まで戻るぞ!」


オーベルを抱えたまま跳躍するヨハン。

一回で階段の中程まで跳び上がる。


「なんとオヌシが勇者か

人間とは思えぬチカラ」


ヨハンの跳躍力に驚きの声を上げたオーベル。

ストレガはゲカイを後ろから抱き上げると

踵から炎を噴射して上昇

一気に天井付近まで飛ぶと

器用に空中で方向転換すると

踵の向きを変え、入り口に向かって飛び込んでいった。


「ただの人間じゃ無ぇが勇者でも無ぇ」


二回目の跳躍で天井付近の

踊り場に着地したヨハン。

我ながら自分の力の調整具合の

進歩に自分を褒めた。


この力を手に入れた頃は

飛び過ぎて激突がしょっちゅうだった。


階段を駆け上がり

回転扉の場所まで来た。

ストレガとゲカイはそこで

扉を閉める準備をして待っていた。


ぶつからない様にすり抜けると

背後で石がこすれ合う音がした。


扉は閉められた。

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