第27話 とある兄貴の以下同文

城の地下へと続く階段を

見つけると一行は下りて行った。


最下層の部屋まで来た。

別段、変わった所は無く

物置、倉庫代わりの部屋ばかりだった。


「こっちよ」


何も無いかと思われたが不意にゲカイが

通路の微弱な足跡に気が付いた。

薄っすらと積もった埃についた

僅かな痕跡を追う。


通路の突き当りまで来た。

突き当り手前で半円を

描くように埃がどけられていた。

この突き当りの壁は

回転するドアだという証拠だ。


慎重に壁を回転させ

壁を盾に狙い打たれない様に気を使った。


45度程、開いた所で一旦止め

扉の陰から顔をそっと出しゲカイが中を窺う。


「大丈夫、まだ下に続く階段が隠してあっただけ」


警戒を解き、普通に開ける。


その階段は異質だった。

今までの城の作りとは違い天然の石を

階段になるように大雑把に削った作りだった。


ゆっくりと下りていく。

城の底、最後の人工物である

土台の石垣は地下空洞の天井になった。


ヨハンは何故か降臨の洞窟神殿を連想した。

岩の壁に光る苔、確かに似ているが

物理的類似点よりも場の空気というか

異空間、異質な感覚が

似ていると直感したのだ。


光る苔は岩壁だけでなく

地下空洞の底にもあった。

しかも人工的に配列されている。


「「魔法陣」」


ヨハンとストレガは同時にそう呟いた。

アモンが書いた図形と酷似していたのだ。


その魔法陣の中央に誰か居た。

一人だ。

うずくまっている。


広い空間、罠も仕掛け無い。

三人は気配を消す事もせず歩き

その人物のすぐ近くまで接近出来てしまった。


「屍人にオーベルが取り付いている」


デビルアイで走査したゲカイは小さく呟いた。

ここまで無警戒に近づいたのは

危険を感じなかったからだ。

その屍人はうずくまって

泣いていたのだ。


泣いているのは取り付いている

虫のオーベルだが

命令が宿主に連結したままなのだろう

感情表現がそのまま出ていた。


「おいたわしいや」


震えながらそう繰り返し続けていた。

ここまで近づいて気が付いた。

オーベルは何かを抱えている。


赤ん坊・・・いや、その前の段階

胎児のような物体。

明らかに人類では無い生き物の胎児だ。


「まさか、嘘でしょう。」


ゲカイが珍しく言葉に感情を混ぜて喋った。


「あれが、まさか・・・魔王なのか」


ヨハンがそう言うと、オーベルは泣くのを止め

うずくまった状態から体を起こし

座ったまま振り返った。


「そうとも、これこそ我が主

腐敗の魔王 ビルジバイツ様なるぞ

控えぃ頭が高いわ」


屍人はただのおっさんだったが

話声には魔力でも乗っているのであろうか

魔神たる風格みたいなモノを感じた。


相手に戦意は無い。

そう判断したヨハンはその場に腰を下ろす。

残りのヨハンに習って座った。


「よくぞ、追いついたな・・・勇者か?

見事なり、否。愚かなりは予言者ワシ

何が計だ13将だ。全て外れおったわ」


見るからにオーベルはヤケクソになっていた。


「外れた?全部思惑通りじゃねぇか

こっちは後手後手にやられっぱなしだったよ」


ヤケクソになりたいのはこっちだ。

ヨハンはそう思ったがオーベルは

自虐的に白状し始めた。


「降臨の際、最も早い段階でアモン様は

敗北し魔界に帰ると見えていたんじゃ

それが聞けば最後の最後まで残って

四大天使を討ったとか・・・ハッ何が予言」


いや、それ当たってたんだが

とある兄貴が引き継いで・・・

説明が面倒くさいし長くなるので

言うのを止めたヨハン。


「教会も壊滅し力を完全失うハズじゃった

ワシを疑いしつこく追い回して来た

あの忌々しいユークリッド一人だけなら

何の問題も無い・・・ハズじゃった

それがどうだベレンに拠点を移し

権力を保ち機能しとる・・・ハッ」


いや、それもとある兄貴が

あー以下同文


「ベレンみたいなデカイ都市を

無傷で残すからだ。甘いぜ」


変わりにそう言ったヨハンだったが

オーベルはジト目になり

悔しそうに言った


「ベレンは今頃、伝染病で死屍累々

・・・の予定じゃった。罠は準備したんじゃ」


これには驚いた。

誰もこれは阻止していない。


「何だって?!」


発動が遅れているのだとしたら

これから危ない

ヤケクソついでにどんな罠か聞き出してしまおう

ヨハンは瞬時にそう判断した。


「どんな罠だったんだ」


「スケルトン。一体の特殊な

スケルトンを作った。そいつの骨は

大気に触れると疫病の元をバラ巻く仕組みでな

そいつをベレン近くに放っておいた。

例え倒されてもスケルトンを

埋葬などしない、罠なそのまま機能し

病原の元を吸い込んだ冒険者が感染

ベレンに戻りパンデミックじゃ

これも見えていたのだがな・・・ハァ」


ストレガが自分の両手で自分を抱きしめていた。


「例えば、例えばの話、そのスケルトンを

鉛か何かで骨が露出しないように処置した場合

どうなる?」


ヨハンの質問に首をかしげるオーベル。


「ハァ?随分特殊な例じゃの

呼吸しないスケルトンを水没などの

密閉処置は施されない前提で作成したからの

・・・・酸素が絶たれれば

三日程で疫病の元自体が死滅するのぉ」


やっぱりだ

とある兄貴が

以下同文


ほっとした様子のストレガ。


「結局、女神も魔王も暗殺を

しくじった様子でな・・・

その辺・・・詳しく知らんかね」


はい

それも

とある兄貴が

以下同文


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