第23話 夜死んでも

夜の話合いでは明確な結論は出なかった。

ゲカイは

完全に魔王側というワケでは無く

アモンが肩入れしていたヨハンを含む

人間達を尊重すべき思いが有ると

正直に告白してくれた。

その時が来るまでに結論を出して

おかなければならない。

ヨハン自身も裏切ったゲカイを

殴り殺せる自信が無かった。

出来ればこのまま人間の側でいて欲しい。

そう願わずにいられないヨハンだった。


次の日は

ゆっくりと起床になった。

時間を見て驚く

この若い体はいわゆる爆睡という事が出来た。

年を取ると長時間の睡眠は苦痛で出来ないのだ。

寝ているのがツラくてどうしても起きてしまう。


ふと隣を見るとチャッキーはまだ寝ていた。

ヨハンより早く床に就いたのに

本物の若者の爆睡に舌を巻く。

午前中が終わってしまう。

いい加減起こしてもいいだろう。


ヨハンはチャッキーを起こすと

遅めも遅めの朝食を取りに一階に下りる。

女子二人は既に食後のお茶も終えていた。


「おはようございます。お兄様」


「早くない」


そう言う女子二人に欠伸混じりで

挨拶を返す男子二人。


食事が運ばれてくる頃になって

ようやく頭が起きて来た。


「・・・速いな。」


ヨハンはボードに張り出された依頼の

中にエロル保護の依頼がある事に驚きの声を漏らした。

昨日の今日である。


ただ冒険者達の興味は薄い。

相手が相手だ。

依頼の内容もエロルの保身第一が

重要事項になっているせいだ。

抵抗してくる相手を無傷で保護など不可能だ。

仮に冒険者が負わせた傷で無くても

その証明が出来なければ

それを理由に処刑だって十分考えられる。


美味しい部分の全く無い依頼だ。


手配を出したのは恐らくパウルだろう。

これの狙いは冒険者に捕まえてもらう事では無い

むしろ手出しさせない為と

一番の狙いは手配書の最後に書かれた。


情報だけでも少額の報酬がでる。


この部分がキモだ。

各地に散らばる冒険者の目を利用するつもりなのだ。

急ぎで出発したのに

これだけの準備を済ませてから出て行っているのだ。


大したモノだ。

ヨハンは素直にパウルを賞賛した。


食事を終えると受付まで行き馬車の手配を依頼した。

ここでもストレガのプレートが

力を発揮して、最新型で馬も優秀なのが

着いた一台を即時購入、準備まで出来た。

ヨハン達の旅支度の方が遅かった位である。


御者の経験が無いとの事で

男子二人で交代で御者をする事になったのだが

チャッキーだと意味も無く飛ばすので

主にヨハンが担当した。


夕刻には小さな集落に到着出来た。

地図通りである。


ここでの聞き込みで貴重な情報が得られた。

大した荷物も無く若い男だらけの集団が

昨夜にやってきて今朝には出発していった

という事だ。


「間違いなさそうだな」


ヒタイングから南に

魔の森を東寄りに迂回し荒野を進むと

その先が例の渓谷だ。


小さな集落の割には宿屋は大きかった。

というか馬車一日分の距離ごとに

こうした集落・村があり

主な収入源が旅人の落とす金なのだ。

ただ、やはりベレンやヒタイングに

比べると質素も質素で

テルマエも無く、井戸水で体を拭くのがせいぜいだった。

出発前にもうひとっ風呂浴びれば良かったと

ヨハンは後悔した。


「良かったーやっぱり来たわねー。」


宿で食事を取っていると

若い女性が明らかにヨハン達に向かって

そう話しかけて来た。


誰だ?

そう警戒したヨハンの答えは

ストレガの返事で出た。


「ソフィさん?!どうしてここに」


ソフィ

ストレガの話にちょくちょく出て来る元冒険者で

ガウとクロードと良く行動していたとか

今は皇女のグロリア専用の護衛をしていたハズ

ヨハンはそう思い出し、ストレガと同様の疑問を持った。


なんでここに?


ソフィと呼ばれた女性は

4人テーブルなので椅子が無い事に

気が付くと隣のテーブルの椅子を勝手に

反転させ断りなく同じテーブルに入って来た。

フードを後ろにやると

ショートもショートの赤毛の髪だ。


「大分・・・生えてきましたね」


頭髪を見たストレガは申し訳なさそうに

そう言った。

確か試合で相手になった時に

雷撃で髪の毛がヒドイ状態になったと

ストレガが言っていた。

恐らく坊主にしてしまったのだろう。


「ええ、手入れが楽なのは

嬉しいのだけれどやっぱり視線がツラいわ

早く伸びないかしら」


ソフィは自らの頭髪を指でつまんで

長さを確かめる様な仕草でそう言った。


「そうすっか?今でも十分カッコイイっすよ」


チャッキーはお世辞でなく本気で

そう言っているようだ。


「ありがとう。でもやっぱり

カッコイイより綺麗とかかわいいがいいわ」


ここでヨハンも思い出した。

そうだソフィだ。

ガウのスカウトを考えていた時に

会った事があるハズだった。


ただ、その時とは違い

若返ってしまっているので

ここは初対面でいくべきだ。


「えーと、紹介しますね」


なんだコイツは

と言う様な表情になっているゲカイを

察してストレガはソフィの紹介をし

その後、皆をソフィに紹介した。

ゲカイが魔神であることは伏せ

特殊能力者という形で紹介した。


各自、よろしくと握手をした。


「で、改めて、えーどうしてここに」


ストレガが最初の問題に戻した。


「仕事よ」


皇女は、ようやくベレンの館に入り

護衛もついているので

教会から別の仕事を依頼されたとの事だ。

雇い主はバルバリス政府なのだが

今は完全に教会が代行し

ローベルト・ベレン6世も教会に任せっぱなしだ。

忠誠は無いが義理はあるので

取り合えず言う事を聞いているそうだ。


ソフィが受けた依頼は

エロル追跡だ。

パウルが予想した進路をベレンから

逆方向に移動してここまで来たそうだ。

アモン兄妹も独自に動いているので

合流できれば望ましいと言われていたそうだ。


「昼間スレ違った集団がお目当ての集団で間違いないわ」


積荷も無いまま、奴隷でも無い集団を

乗せた馬車など無いそうだ。

そのまま引き返すのも目立つという事で

今日はここで一晩アモン兄妹を待つ事にしたそうだ。


「今はここに滞在しているハズ

というか後は野宿しかないわ」


ここから馬車一日の距離で同様の

宿泊可能な集落の場所を地図に指さして説明するソフィ。


街道を進むならば

翌日にはエルフが住むと言われている

東の森に通じる道とベレン方向に向かうT字路に当たる。


例の渓谷は森の手前だ。


「ベレンに向かうつもりだったらどうする」


ヨハンがそう聞くと

その街道沿いには別の者が手配されているそうだ。


「なので、今夜はとりあえず

再会を祝して乾杯よー」


仕事の話ソコソコに飲みに入ってしまうソフィ。

どうせヨハンも飲むつもりだったので

そのまま宴会になってしまった。


宴の最中にストレガが小声で

ヨハンに教えてくれた。

ソフィは暗殺者アサシンのクラスであると。

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