第22話 いて欲しい時程、だいたい居ない
ここの冒険者支部にもテルマエはあった。
ベレンの方が大規模だが
都市の大きさから比較すれば大したものだ。
部屋に戻ると
チャッキーは既にいびきをかいていた。
まだ寝るには早いのでヨハンは
そのまま一階に下りて一人飲みに入った。
「やっぱり晩酌に来ると思っていた」
突然、対面の椅子が引かれゲカイが現れた。
恐らくずっと一階に居て
存在の感知を解除していたのだろう。
「ん?なんだ個人的に話か」
それ以外に無いだろうと思ったが
確認の言葉がヨハンの口から出た。
隣のテーブルの冒険者がゲカイを二度見している。
キレイな二度見だった。
「飲み過ぎたかな」
その冒険者はそう言って席を立っていってしまった。
二人とも何となく、その冒険者の後ろ姿を見送った。
「んん」
仕切り直しの咳払いをしてから
ゲカイは話を始めた。
「話はオーベルを見つけた後の事」
「見つけられるかどうか、まだ分ん無ぇだろ」
「絶対に遭遇する。他の目的が考えられない」
そう断言するゲカイだが
果たしてそうなのだろうか
これまで
降臨から今までの全てで
オーベルはこちらの予想の外に居た。
ヨハンは何となく今回も
肩透かしを食らうような気がしていた。
「仮にここで見つけられなくても
オーベルが行動を起こせば、いずれ対峙する」
ヨハンの考えを読んだかの様に
ゲカイはそう続けた。
「何か食うか。地元特産のフルーツがあるみたいだぜ」
自分だけ店を広げて相手には何も無い。
そういうのは気分が良く無いヨハンだった。
ゲカイは見た目は子供だが中身は大人の魔神だ。
しかし、今のヨハンの提案に
見た目に似合う反応が出てしまった。
「お・・・お金が」
結構な額を渡しておいたハズだが
「俺のプレートで支払えるよ。実は俺も食いたいんだ。」
嘘だがそう言っておいた。
それならばとゲカイは了承した。
ジュースもついで注文する。
「で、オーベルに会ったら
どうだって言うんだ。」
一口食べてみたが悪くない果実だ。
話の続きを促すヨハン。
「ヨハンはどうする気なの」
「倒す。皇太子はできれば生きて
取り戻したいがな」
口にしてハッキリと自覚した。
自らのドス黒い感情。
治療呪文が使えなくなったのは
ヨハンが神を疑った。
それも、もちろんあるのだろうが
この恨みの感情も否定できない。
バリエアを失った。
その恨み
オーベルがその張本人なら躊躇いなく殺せる。
そんな黒い感情に捕らわれた男に
神が力を貸せるハズは無い。
「・・・ゲカイは違うのか」
そんな当たり前の確認をして来るとは
思っても居なかったのだ。
「・・・分からない」
ヨハンの返事を待たずに
ゲカイは言葉を続けた。
「私の目的はアモン様の憂いを晴らす
徹頭徹尾これだけ。オーベルの魔王復活が
アモン様にとって良い事なのか
悪い事なのか・・・・。」
ここが微妙だ。
ゲカイにとってのアモンとは
魔界にいる魔神で人に乗っ取られる前の
別人格を含む、いやむしろそっちが本体だ。
ヨハンにとってのアモンは
人の意識が乗っ取った兄貴だ。
兄貴なら間違いなくオーベルを倒す。
だが、魔神アモンはどうなのだろう。
「確認のしようが無ぇな。魔界に
連絡とか出来る秘術は無ぇのか」
あればやっているだろう。
そうは思ったがヨハンは口に出した。
首を横に数回振るゲカイ
遅れて追従するツインテール。
毎回、思うが兄貴
コレのどこがたまらないんだ。
そう思うヨハンは
オーベルの魔王復活
その先の目的に疑問を持った。
「魔王復活させた後はどうする気なんだ」
ヨハンの知っている魔王は
ナイスバディで甘い物好きで
自分では何も考えていない様子だった。
あれは参考にならない。
その腐敗の魔王 ビルジバイツは
蘇った後、何をしでかす気だ。
魔王だ。
どうせ人類にとって良い事など無い。
これはガバガバに出張ってもらうしか無いかも知れない。
「そこなんだ。それによっては
魔王に協力すべきなのだろうか私は・・・。」
そうだ。
ゲカイは魔神だ。
人類の敵だ。
同じパーティで戦っていたせいで
深く考えなかったが
これは異常だ。
「俺達・・・良く一緒にいられたな」
「全てはアモン様の采配」
「すっげえぜ・・・良くこんなバランスを
維持したモンだ。」
改めてアモンの手腕に舌を巻いたヨハン。
力の魔神と言っていたが
パワーバランスの魔神の間違いじゃないのか
どうしたらいいんだコレ
答えが出そうも無いヨハンは
途方に暮れて、そう考えた。
「アモン様の指示が・・・欲しい」
「全く同意だぜ」
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