第17話 むしろ本戦
「私も是非お会いしたかったモノですねぇ
そのア・・・のお方とやらに」
ハンスの話を聞き終えたユーは
そう言った。
ハンスはヨハンの悪魔契約の下りは省いて話をした。
冒険者ヨハンは同名の別人で
9大司教のヨハン・ブルグは降臨の際に
悪魔に取って変わられバリエアの教会で
その悪魔も滅された。
公式の確定事項だ。
「さて、急ぎの要件も決めてしまわないと」
話を変えるユー。
エロルの処遇についてだ。
「今ならば、まだ聖騎士は教会の
指揮下にある。ご乱心なされたという事で
身柄を拘束してしまいましょう」
パウルは身を乗り出して提案した。
「ですねぇ。時間を与えない方が良いでしょう。
個人的には軟禁した後にエロルから安全に
虫を除去する方法を探りたいですねぇ
皇帝に据えるかどうか別として」
ユーとエロルは幼少の頃から
兄弟の様に過ごしている。
特別な感情があるのだ。
「聖属性の魔法が使える私ならば
乗っ取られる危険は一番少ないと
思います。武としての務めも果たさないと」
ハンスが名乗り出た。
魔神には聖属性が有効だ。
オウベルは教会関係者と懇意な関係を
築かなかったのでは無く
築けなかったとも考えられる。
もしかしたら、微弱でも効果があったのかもしれない。
ユーに取り付いてからエロルに移動する。
その手段だってあったハズなのだ。
「心強い。お願いできますか」
パウルの問いに力強く頷くハンス。
「あの冒険者の方々にも
引き続き協力をお願いしたいですねぇ」
ユーは腕を組んでそう言った。
戦力としてかなりの評価を付けている様子だ。
「はい。同じ人数で彼等を倒せる人間は
恐らくこの大陸に居ないでしょう。
最強のメンツですよ」
良い情報のハズなのに
こめかみを押えてパウルはそう言った。
聞いてみれば
先程の戦闘で海に蹴り込まれた
聖騎士の何名かは行動不能状態らしい
溺死寸前になった者も何名かいたそうだ。
「今現在のヒタイングの状況は
どうなっているのですか」
ユーの質問にパウルが答えた。
「無事な聖騎士はユークリッド強奪犯を
追わせていますが、戦闘で無く
話し合いをするように言い聞かせてあります。
エロルはヒタイング領主の館で旅の疲れを
癒してもらっています」
ユーは組んでいた腕を解き膝に当て言った。
「聖騎士は戻ってもらいましょう。
領主の館の人々は避難してもらい
エロル捕縛は我々で行う方がよさそうですねぇ」
「では、そのように」
パウルがそう言うとハンスが名乗り出る。
「冒険者の皆さんには私から」
「お願いします。後、移動の時は
こちらの馬車に戻ってください
詳しい作戦は移動中に決めます」
そう言うパウルに一礼しハンスは
教会用の馬車の外に出た。
待ちかねた様に皆の注目がハンスに集まる。
ハンスは今しがた決定した事柄を
そのまま皆に伝えた。
「父上は助け出せるのですか」
ついこの間、祖父を惨劇で失い
久しぶりにエラシア大陸に帰還した
父まで続けて失うなど耐えられないだろう。
必死な様子のセドリックにヨハンが答える。
「オウベルの死因は喉からオーベル虫が
飛び出した事じゃねぇ。その後の
ナイフによる刺殺だ。ハンスの聖属性攻撃なら
外傷無しで取り付いている虫だけ始末できる
可能性は大だ。」
「急ぐぜよ。嫌な予感が止まないんだ」
クロードはそう言いながら馬車を出す準備に入った。
嫌な事を言う。
クロードは10年以上も冒険者の最前線に君臨している
そして今も致命的な怪我をせずに現役でいる。
そんな男の言う嫌な予感。
素直に従った方が賢いだろう。
ハンスは教会用の馬車に戻り
残りは冒険者用の馬車に乗り込んだ。
「ん?金髪のお嬢ちゃんがいないぜよ」
出発の最終確認をしていたクロードが
その事に気が付いたがヨハンは
それでいいから出発しろと言った。
詳しくは分からないが
ゲカイが只者では無い事を察しているのだろう
クロードは疑問を口に出す事無く馬車を出した。
なんでもソフィという仲間も同じような感じらしい。
ヨハンはストレガに先行出来るか尋ねたが
備蓄の火薬が乏しいとの事で無理だった。
このまま馬車で一緒に移動する事になった。
教会用の馬車の中、パウルは調子を崩していた。
森の中、道無き道を急いで移動している。
揺れはひどいモノだった。
街道まで出ると大分楽になったが
乗り物酔いは消えない。
ふと、ハンスとユークリッドを見ると
平然としていた。
ユークリッドは船に慣れている。
馬車程度なんでもないのだろう。
ハンスも旅慣れしている。
更にアモンの背に乗って空を飛んだり
勇者におぶさり馬より速く移動した経験もあるそうだ。
嘘か本当かは判断材料が無いが
ハンスはホラを吹くタイプの人間ではない。
信じて良いのだ。
こちらも馬車の揺れなどかわいいものなのだろう。
普段からデスクワークが主で
あまり移動をしないパウルには
ベレンからヒタイングの移動だけでも疲労困憊だ。
「乗り物酔いですか」
パウルの変調に気が付いたハンスが
そう声を掛けて来た。
「あぁ、移動は馴れないモノでね」
出来れば会話もしたくない状態だった。
「よろしければ治療いたしますよ」
聞いて見ればハンスは外傷だけでなく
毒や麻痺などの状態異常も治療可能だそうだ。
自分の知らない術に身を任せる事に
若干不安を感じたパウルであったが
相手がハンスならば信用出来る
なにより苦痛を緩和したかった。
倒れている場合では無いのだ。
しかし、ハンスは貴重な戦力だ。
ここで消耗してしまうのは避けたい。
パウルがその懸念を説明すると
ハンスは笑って大した消費にはならない
魔法だと言って来たので
お願いする事にした。
「-------。」
聞いたことの無い言語で
ハンスはつぶやき出すと
翳した手が銀色に輝き出した。
パウルの首筋に手を当てると
先程までパウルを痛めつけていた苦痛は
嘘のように消えてしまった。
気分爽快だ。
「すごい・・・ですねぇ」
秘術では無い魔法を目の当たりにして
ユーも感嘆の声を漏らした。
先程のハンスの冒険譚が
本当である事の証明でもあった。
「私でも覚えられたり出来るのでしょうか」
「私は無理でした」
ユーの疑問にパウルはそう答えた。
彼もハンスから幾度となく指導を受けたのだが
結果は思わしくなかった。
ハンス曰く、警戒・心の壁を解ければ
後は一気に習得出来うるらしいが
パウルには心の奥底の疑心暗鬼が消せなかった。
「心の壁・・・ねぇ」
パウルの話に考え込むユー。
ユーはどちらかといえば
ハンスよりパウルに近い人間だ。
「ゴタゴタが片付いたら、やってみませんか
ユークリッドさ・・・んなら私は出来ると思います」
ユーは笑顔で是非ご教授願いたいと
ハンスに申し出た。
内心パウルは無理だと予想した。
作戦自体は簡単に決定した。
3司教を護衛の冒険者が囲みながら
聖騎士達が指揮下にある事を確認した後
領主の館に赴きエロルを捕縛する。
ただ相手の状況次第では
臨機応変に対応しなくてはならなくなる
聖騎士は館の包囲に当て
実際の戦力は勇者を含む冒険者に
セドリックは最悪の事態を考慮して
教会内に留まってもらいたいが
また説得に骨を折る事になりそうだ。
作戦が決まっても
まだ、到着までは時間があった。
徐おもむろにパウルが口を開いた。
「最高指導者の件なんですが・・・。」
ユーは身構えた。
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