第15話 これも戦い

港を抜け、街道まで出ると人気の無い

場所で一台の馬車が一行を待っていた。


焦る者はいなかった。

なぜなら、その馬車は来る時に

乗って来た冒険者組合手配の馬車だったからだ。


横に並ぶ位置で停車する。


「派手にやったな。大騒ぎぜよ」


御者の位置に座っていたのは

G級冒険者のクロードだ。


「お帰りなさいお兄様。例の物は

もうこちらに積み込んであります」


客車の窓から顔を出しストレガはそう言った。

ヨハン以外が驚く。

彼女は空であの閃光を放った魔女だ。

それが先に合流していたのだ。


「おぅご苦労。速いな」


ヨハンの指示で目くらましの後はインターセプターに

潜入し奪取すべき品々を集める手筈になっていたのだ。


それにしても馬車で休み無く移動したのに

先回りされるとは空を飛べるというのはズルい。

こんな事だったら自分も飛べる様に

改造してもらえば良かった。

そう思うヨハンであった。


一行はそこで乗り換えをして、奪った馬車は

そのまま追っ手に回収してもらうように

そこへ置いて行くことにした。


街道から外れ近くの森へと入る。


「助かりました。礼を言います」


拘束を解いてもらったユークリッドは皆に頭を下げた。


「ご無事で何よりです。おかえりなさい」


「ん?・・・ハンス君ですか」


司教の服でなく一般人に偽装していたので

初見で分からなかったようだ。


「はい、パウルさんの作戦で偽装しました」


「流石ですねぇ。私がどうこう言わなくても

彼はもう異常事態に気が付いていたのですね」


ハンスはユークリッドにパウルの作戦を説明した。


上陸直前の連絡に応答が無かった事から

オウベルがユークリッドに何か仕掛けたと

想像したパウルは下船の際に

オウベルを捕縛、エロルとユークリッドの

安全確保を最優先で動ける様に

冒険者協会の仲間に依頼していたのだ。


ゲカイならばオウベルが魔神か人間か

見抜く事が可能なので

下船の出迎えに紛れて鑑定してもらう事になった。

見抜かれた瞬間に攻撃も予想されたので

護衛するストレガも司教の列に紛れていた。


しかし、現実は想定していなかった事態になった。

オウベルは下りてこず

真っ先に下船した皇太子エロルが魔神に

体を乗っ取られている状態だった。


そこからは別働隊の独断での襲撃だ。

魔神には今は手が出せないので

ユークリッドが生きていたら

その救出と逃亡を最優先にした。


「良い判断ですねぇ。私でも同じだったでしょう」


ユークリッドに褒められ、恐縮しまくるハンス。


「で、チャ・・・Mr.カラテドーは

どうしてあの現場に居たんだ」


ヨハンが疑問をぶつけた。

今回の部隊編成にチャッキーは入っていなかった。

降臨騒ぎ、その後の行方も不明だったのだ。


「チャ・・・Mr.カラテドーには私が」


勇者がそう言いかけた時に

Mr.カラテドーは仮面を外して言った。


「いや、もうチャッキーで良いでしょ

知り合いしか居ないんだから

おかしいでしょ!」


「チャッキー?!チャッキーなのか」


「チャッキー君がMr.カラテドーの正体?!」


「誰ぜよ」


「バカ」


チャッキーはハンスと同じ元々勇者PTの一員だ。

降臨騒ぎの最後で勇者ガバガバと遭遇し

勇者の指示で単独行動していた。

ガバガバと違い、しがらみに囚われず

行動出来て、信頼も置け、腕も立つ貴重な人材だった。


9大司教に頼まれヒタイングに

行く事になった時

勇者ガバガバはチャッキーにも

独自で助力を要請していたのだ。


「要するに・・・。」


ヨハンが纏めた。


「靴買ってやるから働けと」


「大体あってるっす」


いいのかそれで

そう思うヨハンであった。


「私も知りませんでしたよ」


ハンスの一言に同意の頷きをしたセドリック。


「ゴメンね。今はどこから

情報が洩れるのか確認したい意味もあったの」


ガバガバは両手を合わせ謝罪の意を示す。

決して二人を信じていないワケでは無いと

アタフタと説明を繰り返した。


「はい。分かってますよ」


ニッコリと笑顔で答えるハンスは更に続けた。


「しかし、そこまでするとは今回は

随分と念を入れていますね」


勇者とハンスは旧知の間柄だ。

ハンスに言わせるとガバガバは

行き当たりばったりで

その場の直感でなんとかするタイプ。

しかも、その真実を嗅ぎ分ける嗅覚は

鋭く、下手に考えるより

良い結果に繋がるケースが多いそうだ。


そのガバガバが事前に企てるなど

珍しい事なのだ。


「ええ、出来うる限りの事をするわ

・・・・魔勇者殿との約束ですもの」


真剣な面持ちでそう言うガバガバ。


「約束・・・何を」


「お兄様と約束って何ですか」


ガバガバにゲカイとストレガが

食って掛かっていった。


「後は頼んだと・・・降臨後の

世界と皆の安全を託されたのよ。私に」


バリエアでの救助活動。

あの日、呼び止めるガバガバの声も

届かずに空へと消えていったアモン。

その時の事を思い出すガバガバは

遠い目をしてそう言った。


何故がカチンと来た様子のストレガ。


「・・・一緒に行動するのを嫌がっていたのかしら

その後、夜通しで私を探して頼って来たんですよ

お兄様は!私を」


うっとりとした表情から一転し

何故かカチンと来た様子のガバガバ。


「その後も私に最後を見届けて欲しいって

お兄様は・・・私に」


今度はストレガがうっとりと、し始めた。


「妹って恋愛対象外って意味ではないのかしら」


何故か勇者っぽい勇ましい顔から

いやらしい表情に変わったガバガバがそう言った。


「恋愛?所詮は赤の他人でしょ。別れればそれまで

兄妹は例え何が起きても不変なの、永遠に

変わる事の無い関係よ。そうなってくれって

言ったの、私に」


何だか変な雲行きになり始めた。

二人を止めようと身を乗り出すヨハンだったが

後ろから肩を掴まれ椅子に強引に戻された。


チャッキーだった。

チャッキーはヒソヒソ声で怒鳴るという

妙技でヨハンに注意した。


「こう言うのは口出しちゃマズいっす」


「でもよぉ」


こんな事している余裕があるのか

そう思うヨハンであった。

そんなヨハンの思いをくみ取ったのか

ハンスは身を乗り出し割って入っていく。


いいぞ

流石は現職「武」

いけハンス。

しかし、ヨハンの期待は裏切られた。


「私なんかですね直に魔法を伝授されたし

すごいとも褒めて頂きましたし」


「何でお前まで張り合うんだ!」


馬車は人目を避け森をゆっくりと進んでいった。

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