第14話 イニシャル奪取

「ナイスだ!チャッキー」


ようやく現場まで駆けつけたヨハンは

仮面の男にそう声を掛けた。


「チャッキー?誰っすかソレ俺は謎の男の」


慌てる仮面の男に

同じく到着した勇者も声を掛ける。


「靴のサイズ大丈夫?動きやすいといいんだけど」


「バッチリっす!前から欲しかった奴なんで

最高っすよ!何しろ脱げないのが最高

て、違ーう!!俺は謎の」


怒り出す仮面の男に

同じく到着したハンスが声を掛ける。


「チャッキー君!!元気そうだね」


「ハンスさん!ちぃーっす

て、違う俺は!!いいか俺は!!」


怒りのボルテージがどんどん上昇していく

謎の仮面の男に

身体能力差から遅れて駆けつけたゲカイも声を掛ける。


「あ、バカだ」


「遂にバカ一言かよ!!」


暗にバカ=チャッキーを認めた瞬間である。


「頼むから・・・協力してくれよぉ」


何とも情けないと言った様子で

項垂れる謎の男は泣きそうな声でそう言った。


「悪かったチャ・・・謎の男」


「ゴメンねチャ・・・仮面の人」


「一体何者なんでしょうね」


「バーカ」


「なんだ貴様は!!」


チャ

謎の男より、ももっとお怒りのエロルが

一緒に蹴られた手を押え怒鳴った。


「うっせぇ!エロ親父!!」


後ろ回し蹴りで答えようとする謎の男だが

エロルは既に聖騎士に庇われていた。

逆に聖騎士が謎の男に攻撃を仕掛けようとしている。


正装用の槍だが、殺傷力は有る。

取り囲まれた謎の男は窮地に陥った。


ドーン


花火でも上がったのだろうか

空で火薬の炸裂する音がした。

その場の誰もが咄嗟に

音が鳴った方向の空を仰ぐが

音源は風を切って、既に頭上まで

移動を終了していた。


真上だ。


「親方!空から女の子が」


ローブをたなびかせ

身長と同じくらいの長さの杖を

掲げた魔女は左手を真下に向ける。


チュバッ!!


先程の爆音とは違う炸裂音と共に

眩しい閃光が辺りを白一色に染めあげた。


その瞬間を逃さず

ヨハンと勇者は聖騎士に体当たりをかまして

ユークリッドの身柄を確保すると

貨物倉庫から強奪してきた馬車が

タイミングよくこちらに向かって来た。


次期帝王殺害は洒落にならないが

司教誘拐なら、9大司教が

どうにか出来る。


ハンスの判断に従ったのだ。

御者の頭巾を深めに被った

セドリックは器用に集団に割って入る。


打合せ通りにユークリッドを抱えたまま

軽く跳躍して荷台に乗り込む勇者。

それを確認すると残りの面々も

次々と荷台に駆け上がる。


しんがりはヨハンだ。

皆の安全を確保するため

彼はそれまで抵抗してくる聖騎士達を

片っ端から蹴り飛ばして

海に放り込んでいった。


飛び入りだった為

打合せ無しだったにも関わらず

Mr.カラテドーは一糸乱れぬ

ヨハンとのコンビネーションを展開した。

互いの攻撃終了時の隙に

もう片方が牽制と攻撃を入れて来る

無限コンボだ。


皆、乗り込み

ようやくヨハンの番だ。


「お前も来い!Mr.・・・テコンドー!!」


「カラテドーだ!!!!」


ヨハンはMr.カラテドーと馬車の荷台に飛び込む。

その際にごった返す人の中から

パウルを見つけ出す。


パウルもアイコンタクトでヨハンを

見つめていた。


とりあえずはこれで良しなのであろう。


「飛ばせ!」


ヨハンは前方の御者に最後の仲間が

乗った事を告げると

セドリックは手綱をしならせ馬を打ち

巧みに馬車をコントロールした。


「なんだあの馬車?あのスピードで

あのコーナーを曲がり切れるワケ無ぇ」


「あぶねぇ飛ぶぞ!!」


周囲の観客の不安をよそに

セドリックは雨水を逃がすガイド役の

道端の溝に馬車の車輪を引っ掛けると

物理法則を無視したかの様な

挙動で馬車はコーナーを抜けていく


「何だ今のは!?何が起こった!!」


「スレちがっただけでドッと汗が出た」


「こんなことははじめてだ!! 」


「何が何だかわかんねーけど」


「すげえのとスレちがった…!!」


通り過ぎていく観衆は

口々にセドリックの操る馬車に

驚嘆の声を上げた。


貨車を引いているというハンデにも

関わらず、単騎の聖騎士達が離されていった。


「門が?!」


順調に見えた逃走劇だったが

港出口の直前でセドリックが声を上げる。

出入口の門が既に閉められているのだ。


「これまでか?!」


開門作業中に追いつかれてしまう

しかしこのまま突破出来る頑丈な馬車では無い。

突っ込めばバラバラだ。

死人が出るのも間違い無いだろう。


「そのまま走って!」


馬車を止めようとしたセドリックに


ガバガバはそう言うと

セドリックの横から前方に跳躍し

馬車より速く門に迫る。


背中から引き抜いた

伝家の宝刀は銀色に激しく輝いた。


「でぇりゃああ!!」


走り込みながら剣を振り下ろすと

爆発音と共に門は扉だけでは無く

柱ごと粉砕された。


馬車は破片を踏み

激しくバウンドしながらも

通過していく


「いっやほぉう!」


荷台でMr.カラテドーは吠えた。

テンションが上がっているのだ。


「セドリック。減速はしなくて良いですよ」


ハンスのアドバイスにセドリックは

反対の意志を表明した。


「彼女を置いていけない」


セドリックのその言葉にハンスは

ニッコリと笑って勘違いを訂正してきた。


「私をおんぶして馬より速く

走れる人ですから。巡航速度でも

余裕で追いついてきますよ。彼女は」


そのセリフを聞いた一同は

後方を見ると

ハンスの言葉通りの事が現実に起こっていた。


もはや人間じゃない。


一行はユークリッドの奪取に成功した。




出展


頭文字Dの溝落とし マンガの技なので実際に行うのは大変危険です。

ライダーキックを真似してで骨折する子供のようなモノです。

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