第13話 謎の男 Mr.カラテドー

虫。

なるほど考えたものだ。

そんな肉体で良いのならいつでも

気軽に受肉し、こちらの世界に来られるだろう。


下級悪魔の何百分の一の労力だ。


ただ、持てる魔力も

その矮小な肉体に依存して少なくなる。

数値化するのが困難な程の微弱な量しか

魔力を生産できないだろう。


しかし、寄生虫となり人間に取り付き

その人間を操るならば本体の魔力は

操る事のみに消費され

行使する術用の魔力は

取りつく人間の魔力に依存した恰好になる。


もっと強い人間へ

人から人への移動も出来る。

それが今回のオウベル→エロルで確認された。


問題は最初の人間にどうやって取り付くかだ

降臨時の最初の宿主無しの時に

一発で鳥に食われて終わりという危険がある。


「食料などに潜り込む・・・」


それで乗っ取られたのがオウベルと

名乗った老人で、そして二人きりのタイミングで

老人から皇太子に移動した。


以上がデビルアイで皇太子を走査した結果から

ゲカイの導き出した推論である。


「流石は【計】を自負するだけある

ただ移動先は失敗、力も魔力もたいしたことない」


ゲカイは余裕の笑顔でそう言った。


「いや、権力が問題なんだけどな」


大男のマチョメン、ヨハンは乗っ取られた人物の

この世界における立場をゲカイに説明した。

世界一暗殺対策が施されている人物と言っていい。


「「私の火力なら護衛ごといけます」」


ゲカイと共に司教の扮装をして列にいた

ストレガはミトラと服を脱ぎ去り

下に着ていた冒険者の恰好になると

勇者ガバガバと同じセリフを被って言った。


そう言う事じゃねぇ


これが兄貴の言っていた

マジキチわろえないってやつか

突っ込みは苦手なんだがな


ヨハンがそう思った時には別の男が

すかさずツッコミを入れていた。


「お父様を救い出さなくては!!」


第二継承権を持つセドリック王子だ。

周囲がベレンに滞在を説得したが

ガンとして聞かなかった。

最後は勇者が専用で護衛するということで

今回の作戦に同行する事となった。


「・・・どうすんだよパウル」


ヨハンがそう呟くが

倉庫内に潜んでいる者達

誰もが答えられない。


冒険者ヨハンとストレガ

そしてゲカイ。

王子セドリックと勇者ガバガバ

そして一般市民の恰好に偽装したハンスの

そうそうたるメンツだが

次にどう動けばいいのか分からないのだ。


「・・・取り合えず直ぐに掛かれる方がいいよな」


一同は倉庫を後にした。



顔面蒼白のまま俯いてしまったパウルは

ぶつぶつと何事かを呟いていた。


「だから、あのお方はセドリックと・・・」


初めてアモンと遭遇した日

彼はパウルに次期バルバリス王の二択を迫った。


グロリアを妻に迎えたローベルト・ベレン7世

ガバガバを妻に迎えたセドリック・バルバリス


その時パウルはアモンがエロルの存在を

知らないモノだと勝手に気を利かせ

アモンの間違いを指摘せず流した。

どんな無礼から彼を激昂させてしまうか

分からない。

怒らせるのだけは避けたかったのも大きい。


しかし違った。

間違っていたのはパウルの方だったのだ

エロルは皇帝の座につく事は出来ない事を

あの時点で予見していたのだ。


だったら教えてくれても良いのに


今更、気が付いても後の祭りなのだが

そう思わずにいられないパウルだった。


不意に腕を肘で小突かれ

我に返るパウル。


小突いたのは同僚のトーマスだった。

気がつけばエロルはもう目前まで来てしまっていたのだ。


お迎えの言葉を賢明に思い出そうとするパウルだったが

エロルの方から挨拶抜きで要件を言い渡してきた。


「早速だが仕事だ」


見ても分からない

エロルその人だ。

当然だ。

偽物では無いのだ

体を、自由を完全に奪われているのだ。

中身が魔神だなどと

人間には分かるハズも無い。


「仕事・・・ですか」


「そうだ。道中で事件があった。殺人だ」


「なんですって!?」


焦るパウル。

秘術を利用した直前の連絡に

ユークリッドは応答しなかったからだ。


「大臣の殺害だ。犯人は捕らえてある

即刻、処刑にせよ。移動前に、ここでだ」


後ろ手に縛られ猿轡をかまされ

タラップを二人の聖騎士に引きずられるように下りて来る。

ユークリッドだ。

最悪の事態で無かった事に安堵するパウル。


ユークリッドは引きずられながらも

目線で何かを伝えようとしている。


「これは、何ともエロル様とは思えぬお言葉」


パウルのその言葉にユークリッドの瞳に

安堵の色が窺えた。

やはりユークリッドも気が付いていたのだ。


「お前の考え等問題では無い

良かろう、ワシ自らが引導を渡してやるわ」


エロルはそう言うと聖騎士の腰から

剣を引き抜いた。


よっぽどユークリッドが気に食わないらしい

こんな強引な手段を取ってくるとは


「ま待たれよ皇太子!」


流石のパウルも慌てる。


「マズい!!」


駆けつけたヨハン達も

その様子を発見するが

まだ、距離があった。


止められない。


「ぃぃぃいいいっやほぉぉぉおおおうう!」


貨物下ろし用のクレーン。

そのロープに捕まりターザンの様に

現場に飛び込んで来る謎の人影は

振り下ろされる剣を

そのまま飛び蹴りで弾き飛ばす

そこで綱を離し、空中で華麗に回転して

勢いを逃がすと華麗に着地して

ポーズを決め、見栄を切った。


「謎の仮面格闘家!!

Mr・カラテドー参上!!!」


一体何者なんだ・・・Mr.カラテドー

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