第10話 ピクルスの勇気

孤児を預かる施設。

自分達がそんな場所に放り込まれる事に

なるなどとはバリエアに居た時は思わなかった。


あの災害で家はもちろん両親も失った。


津波に飲まれ冷たい海まで引きずり込まれた。

弟である自分を庇い、兄のカーツは同じ様に

海に引きずり込まれた。


どこかの家の扉をいかだ替わりにし

まだ荒れる波に飲まれないように

二人で必死にしがみついていた。


どの位時間が経ったのかも分からない。

永遠の様に感じていた。

幾度となく飲み込んでしまった海水が

喉の渇きを増長させた。

吐いても吐いても

海水は何度でも全身を打ち付け

飲みたくなくても反射的に

飲み込んでしまう。


やがて体がタイミングを誤り

肺に海水が入った。

酷く咳き込み残り少ない体力を奪っていった。


やがて体力は底を突き自分は海に投げ出された。

兄が自分の名を叫んでいるのが聞こえた。

そして自分が死ぬのだと薄っすらと実感した。


蝙蝠の翼を広げた人影が空から


下りてくるのが見えた。


あれは絵本で見た悪魔だ。


死がやってきたのだ。


そう思って意識を失った。


次に気が付いた時は海岸近くに

築かれたキャンプだった。

兄は泣いて喜んでいた。

悪魔の事は当時は忘れていた。

ただ生き残った事を神様に感謝した。


両親は騎士に仕えていた戦士団にいた。

裕福では無かったが貧乏でも無かった。

親戚が近隣には居なかったので

教会が設立している孤児院に世話に

なる事になったが

そこには自分達より小さい子ばかりだった。

自分も、もう12、兄は15だ。

独り立ちしている者だっている。

居心地、その他モロモロで兄弟で飛び出した。


戦士だった父から手ほどきは

受けていたので二人で冒険者を始める事にした。


魔物はたいして危険なモノでは無い。

それは十分に経験を積んだ冒険者が

キチンと装備と仲間を揃えてこそだ。


二人が森で挑んだ四足歩行の獣型の魔物

角を生やした大型の犬のような外観の魔物。

兄は初撃こそ決めたが

前足で払い除けられると

派手に血を吹き飛ばしながら

自分の足元に転がって来た。


そして今だ。


咳き込みながら血を吐き出し

自分の呼びかけにも兄は反応を示さない。

自分より大きな体格

近所のケンカでは負け知らずだった

兄がこの有様だ。

抱えて逃げようにも

どうにもならなかった。


魔物は逃げ場を塞ぐように

立ちはだかると低く唸る。


自分はこれから殺されると感じた。

そんな今、なぜか

あの時の悪魔が頭をよぎった。


あれは何だったのだろう。


魔物は恐ろしい形相で牙を剥き

遂に飛び掛かって来た。

あの20cm近くにもなる

牙がこれから自分に刺さる。

そう思うと恐怖で動けなかった。


「ほぉうあったぁ!!」


どこから現れたのか大男が

自分達と魔物の間に割って入ると

奇声を上げ蹴りを放った。

魔物は飛び掛かった何倍もの勢いで

蹴り飛ばされ飛んだ先の岩に当たって潰れた。


壁にトマトを投げつけた様だった。

魔物の血も赤いのだと知った。


「---------?!」


大男が自分達の方に振り返り何か言った。

動転しすぎて理解出来ない。

多分、もう大丈夫とかでは無いだろうか。

大男は自分が抱きかかえている兄に

気が付きこわばって動かない自分の腕を

優しくはがし、兄を横たえる。

その頃になってやっと大量の涙と叫び声が出た。


大男は懐から羊皮紙を取り出すと

何かを呟くと羊皮紙は

不思議な光を放つ

この大男の行動と

目の前で起きている現象の意味が

分からず呆然とした。


突然、兄が起き上がった。


衣服は引き裂かれた状態だったが

そこから見える皮膚は不思議な事に傷が消えていた。


「え?え・・え?」


兄も傷の部分を触りまくり

自分の身の上に何が起きたのか確認し、

理解が追いついていない様子だった。


「治療の魔法だ。もう立てるハズだぜ」


大男はそう言って、着いた膝を地面から離す

立ち上がったのだ。


「悪りぃハンス一個使っちまった」


聞こえない程度、独り言だろう

大男はそう言って馬を呼ぶ。

その後、二人ともその大男に連れられて

ベレンまで帰った。


放心状態だったせいで

キチンとお礼も言えなかったを後悔した。


孤児院を預かるシスターに

こっぴどく怒られながら

今度はお礼を言うために

冒険者協会に赴こうと決心した。

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