第9話 ストライクウィッチ
エラシア大陸の南側
そこから先は人の住めない氷の世界だ。
大陸の南端、東のデズデバレイズと
西のバリエアに沿う様に
横に広い国、3000m級の山脈が
国土の8割を占めるドワーフの国。
ドルワルド。
その国境の都市、帝国最南の都市がネルドだ。
クロードを隊長にしたキャラバンは
5日掛かりでネルド目前まで来ていた。
ストレガのG級昇格の為に
ネルドの冒険者協会を訪れる予定だ。
次第に気温が下がっていく以外
何の問題も無かった旅路だったが
最後の最後に大問題が発生した。
大型飛行生物がネルドを襲撃していた。
その真っ最中だ。
ドワーフの国ドルワルドと
人間の宗教の国バルバリス帝国は
敵対こそしていないものの
友好国とは言えない関係だ。
鉱石の取引は行われていたが
基本的にヒューマン以外を差別しがちな
バルバリスと宗教そのものの概念が無い
ドルワルドは互いに気に食わない存在だ。
そんな事情で極寒の地でありながら
ネルドには軍事力が多く注がれている。
降臨の際も多くの聖騎士を
バリエアに派遣していた。
砦の外壁に取り付こうとする
飛行生物に向けて巨大な火矢が打ち出されていた。
バリスタと呼ばれる
固定型弓台がいくつも設置されている。
先端に灯された火が曇り空を赤い軌跡を描いて飛ぶ。
アモンの飛行を知っているストレガには
その矢が可愛く思えた。
「これじゃあ近づけないぜよ」
苛立ってボヤくクロード。
流れ矢が近くの木に刺さり燃えていた。
ストレガは馬車から降りると
炎まで駆け寄り暖を取る。
この旅で始めて気が付いたのだが
この悪魔ボディは低温で機能が落ちるのだ
6000度で金属をプラズマ放出するほど
頑丈で体内圧を常時そこまで上げていた
アモンには影響は無かったのであろう
兄から気温に関する注意は無かった。
ストレガにはアモン程馬鹿げた性能は無いので
気温の変化で動き、体内圧に影響が出たのだ。
手を握ったり開いたりして
反応速度を確認するストレガ。
暖まった様だ。
これなら行ける。
「始末したら怒られますでしょうか」
訓練だとすれば邪魔する事になる。
そう思ってストレガは聞いたのだが
「逆だぜよ。勲章モンじゃ」
クロードは冗談だと思っている様だ。
方法や自身の役割を質問し返してこない。
怒られる事はなさそうだ。
「じゃ、行ってきます」
ストレガはそう言うと
杖「余裕綽錫」を構えると呪文を唱え
空中浮遊をした。
この浮遊は悪魔ボディの機構を応用したもので
魔法では無い、呪文は必要無いのだが
魔法使いとしてのイメージを
ストレガは世に普及させる使命がある為
一々呪文を唱える事にしていた。
そこでクロードがストレガの言が
冗談で無い事に気が付き慌てた。
「ちょ!えっ?あ危ないぜよ!!」
クロードのセリフの最後の方は
誰にも聞き取れなかった。
体内に在庫している火薬に
着火し踵から圧を逃がすストレガ。
耳を劈つんざく文字通りの爆音が響く。
鋭い加速で空へと飛ぶストレガ。
驚いた馬は嘶いななき前足を
祈るかのように天に翳かざした。
後で御者さんに謝ろう。
飛び去りながらストレガはそう思った。
アモンと違い大気操作の補助も出来ない。
大気はモロにストレガに相撲を挑んできた。
ストレガの重力制御の出力は
浮く程度、移動は歩く程度しか無い。
空中戦など夢のまた夢だが、それを補う方法が
体内の火薬の爆発力の出口を限定する事による高速移動だ。
欠点はいくつもある。
体内の在庫の火薬が切れた時点で
フワフワと地表付近まで落ちてしまう事。
急停止、ホバリングも出来ない為
バキッ!!
派手に枝が折れる。
噴射の方向を誤れば
この様に激突必至なのだ。
更に長時間の噴射は
ストレガの本体自体を溶解しかねない
適度に噴射と停止を繰り返し
方向を微調整しながら
ストレガは飛行生物に接近した。
飛行生物は
ムカデに羽が生えたような外観で
体長は10mを超えていた
近づいてみると体表は細かい毛で覆われ
顔はげっ歯類を想像させた。
飛行生物はストレガに気が付き
空中で急激な方向転換をした。
手足と思われる位置から生えた
膜を持つ翼を器用に操り
体をらせん状にしならせ
尻尾でストレガを弾き飛ばすつもりだ。
「とっておきです」
ストレガはベレンの鍛冶屋に依頼して
作成してもらった鋼製の弾丸を
二発、飛行生物の頭部に向けて射出した。
ボボン
一瞬で力尽きた飛行生物は
羽が受ける空気抵抗のせいで不規則な
軌道を描いて落下していった。
ドーン
やがて雪煙が下の方で舞い上る。
長時間に渡って激戦を続けていた
ネルドのバリスタ砲手は
あっと言う間に怨敵が葬られた事に
開いた口が塞がらない様子だった。
噴射を停止し、ゆっくり落下するストレガは
方向を調整して、その砲手の目の前に滞空した。
「ベレンの冒険者協会から来ました。
ネルドの協会はどちらかご存知でしたら
教えて頂きたいのですが」
先端に火を点したまま砲手は
発射するのを忘れていたせいで
火が発射台に燃え移るのでは無いかと
ストレガは内心冷や冷やしながら
そう聞いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます