第1話
梅雨も明け、ガンガンと照りつける日差しに、おうち系男子の痩せ型色白高校2年生の俺は早くも熱中症になりかけている。
「オタクにこの日差しはきついんじゃねーの!」
「オタクじゃない。趣味があるから家から出ないんじゃなくて純粋に家から出たくないから出ないだけだ。」
そう登校中の僕に話しかけて来るのは、暑苦しいことで有名な松岡○造似の同級生、松坂健人だ。ただでさえ30℃を超える気温の中坂道を登って登校しているのに1番暑苦しいやつと登校時間が被ってしまった。まあいつもの事だが。
「なあ陸、今日みんなでスポッチャ行って焼肉行って二次会でカラオケ行って夜はサウナ行って汗流さないか?」
「なんだその青春謳歌の全てが詰まったみたいなスケジュールは…生憎放課後は予備校だよ。次は喫茶店行って図書館行って夜はイタリアン食べるようなスケジュールがあったら誘ってくれ。」
「お前イタリアンなんか食べないくせに」
そんな会話をしているともう登校時間ギリギリの8時30分に差し掛かっていることに気づく。
「走るぞ陸!あと5分だ!」
「悪いが松坂、生憎俺にはこの坂をダッシュで登れるような体力はない。先生には困っている老人を助けている設定にしておいてくれ。」
「そうかよ!!じゃあお構いなく…」
そうして俺が学校に着いたのは9時ジャスト。一限目は既に始まっていたがまあいい。それより松坂もギリギリ遅刻したことがおかしくてたまらなかった。俺は年数回の遅刻だが、松坂は常習犯なので今は生徒指導室でお叱りを受けている。
そんな青春の1ページをすごしながら時間は流れる。あっという間に退屈な授業は終わり、15時30分。放課後になった。所属していたサッカー部を辞めた俺は、2年間この学校で過ごしてきたが、特別仲のいい人間はおらず、話す奴は強いて言えば松坂くらいという、悲惨な人間関係を構築してしまった。日が長い夏の15時すぎはまだ全然明るい。2年前の夏もこんな感じだった。
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俺には橘美乃里という2つ上の幼なじみの女のがいた。物心着く前からその幼なじみに”恋”という感情を抱いていた。彼女が小学1年生、俺が幼稚園の時から、何をするにも一緒で、親同士の関係も良好、一緒に旅行に行くことだってあった。だが、2年前の今日、7月17日。彼女は亡くなった。ステージ4の大腸ガンだった。発覚してからは一瞬だった。彼女は高校2年生、俺は中学3年生の頃だった。そこから抗がん剤治療が始まって、髪が抜けて、みるみるやせていき、1ヶ月後には元気だった彼女とはもう似ても似つかない容姿になっていた。
「あの世で待ってるね。でも急いで追っかけては来ないでよ!あと70年くらいしたら来て!ゆっくり!」
彼女は笑っていた。そんな彼女に僕は怒りが収まらなかった。
「そんな話すんなよ!俺はいまの美乃里嫌いなんだよ!余命だのなんだのそんな話しかしない美乃里が嫌いなんだよ!」
美乃里が死ぬ。それを認めたくなかった俺は、そんな言葉を吐き捨てて病室から出た。もう弱ってる美乃里を見たくなかった俺はお見舞いに行くのをやめた。そして2年前の7/17日、放課後部活の部活が終わってスマホを確認すると、親からの不在着信が20件以上と一通のメッセージが残されていた。
『美乃里ちゃん、ダメだった。』
後悔と自責の念が溢れて止まらなかった。あんな会話が最後になるなんて、思いもしなかった。美乃里ならしれっと治るもんだと勝手に思っていた。認められない、認めたくない。部活終わりの校庭には俺の叫び声が響き渡っていた。
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そして今日は美乃里の命日だ。予備校と嘘を着いたが、家族で今から美乃里の家へ向かう。
当たり前のように美乃里のいる学校へ進学しようとしていたが、美乃里が亡くなったことにより、もうその学校へ進学する意味は無くなった。そして今は家から少し離れた偏差値60前後の私立高校に通っている。寮に入っているため、家へ帰るのは久しぶりだ。嗅ぎなれた実家の玄関の匂いと共に父と母が出迎える。
「陸またでかくなったな!彼女はできたか??勉強は程々にしろよ!」
そう最初に話したのは父だ。痩せ型色白の僕とは似ても似つかないような色黒マッチョな父だ。華奢なのは多分母に似たんだろう。
「陸、着替えなくていいわよね?そろそろ行きましょ。」
そうして車に乗り込んだ。車で5分。距離にして約1.5kmの近場に美乃里の実家はある。何度も来た家だ。
「こんにちは!橘さん!」
最初に家へ入ったのは父だった。次に母、最後に俺が家に入る。
「あら長谷川さんお久しぶり!陸くんもおっきくなってねぇ。しかもかっこよくなって!
美乃里がいたら絶対好きになってたわ〜」
「あはは…お久しぶです。線香あげますね。」
家族3人で美乃里の写真が飾ってある仏壇に線香を供える。この写真、俺が撮ったやつだよな。
何回みても可愛い。
「陸くん、今美乃里の写真に見とれてたでしょ!うふふ。」
「い、いえ!この写真おれが撮ったやつだなーってだけです!はい!」
「あらそう??」
___
美乃里母とうちの両親が、涙を流しながら話し込んでいる。去年もこの光景を見た。思い出話は自然と長くなるものだから、俺は久しぶりのこの地域を散歩することにした。毎日遊んだ公園、人懐っこい犬のいる家、全てが俺にとっての大切な思い出だった。そして、俺が先輩に思いを伝え損ねた砂浜。今日こそは、今日こそはと何度も美乃里をこの砂浜に呼んだが、見事に毎回いえず終いだった。
「もしあの時言えていれば…」
『言えていれば、何??』
そう隣で女の子の笑い声が聞こえる。
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