Chapter1-4

       風化された真実〜1

……人々は、感謝しました。自分達を救ってくれた精霊王達に。そして其々の精霊王を敬う人々が国を創り感謝を込めて各々の国の象徴としたのです。


・暗闇から灯りを作り、凍える夜を暖かく包んだ

火の精霊王を象徴する火の国 ヴール国


・世界を潤わせ、渇きを癒した

水の精霊王を象徴する水の国 シュヴェリア国


・風を操り、声を届け淀んだ世界を浄化した

風の精霊王を象徴する風の国 ヴィエトルリア帝国


・作物を実らす種を作り、飢えを凌いだ

木の精霊王を象徴する木の国 アルボルド国


・大地を整え道を作り、土地を作った

地の精霊王を象徴する地の国 アースランド


・そして精霊に愛された人々の国 リザレス王国


人々は忘れぬ様に物語を紡ぎます、其々の護り人に託して……。

 

 しかし今となっては、〖火の国〗〖水の国〗〖風の国〗〖木の国〗〖地の国〗〖精霊師の国〗何故そう呼ばれるのか分かっていない者が多いのです。



          *

 

 時は過ぎ、レティシアが12歳の秋。

 街は朝からいつもより活気があり、至る所で出店が開いているお祭り状態だった。

 右を見れば林檎や梨の果物が新鮮な状態で並べられジュースにして売っており、その奥では肉を焼いて串に刺したモノが並べられている。左の店には、ブレスレットや指輪などの装飾品が所狭しと置かれていた。

 普段から店が募っているこの街ローショは、いつにも増して人が多く賑わっている。

 

「おじさん!! りんごのジュース1つ下さい!」


 髪を1つに結んで白色のブラウスに茶色のスカートを着用し、黒色のブーツを履いたレティシアは右手の人差し指で数字の1をつくり笑顔で注文した。

 今日は年に1度の秋の収穫祭である。

 春に種を植え夏は成長し秋に収穫して冬を越すのだ。その実りの秋のお祭りは昼には多くの食べ物や物が売られ、夜は明かりを灯し踊って歌ってのお祭り騒ぎになる。


「おぉ!! 姫様、まーた城を抜け出してきたんだろ!」


 果物屋の店主が注文した少女の顔を見て、林檎を手に取り摺り下ろしながら口を開けて笑う。

 

「だって、今日は収穫祭なんだもの! 皆んなと一緒の方が楽しいじゃない!」


 いつも通り城から抜け出してきたレティシアは、なんて事ないと会話をする。

 そう、普段から城を抜け出し街に降りてくる姫様に街の人々は慣れているので、誰も驚かず、それが当たり前の光景になっている。

 街の人々も、レティシアに気づいては「姫様うちにも寄ってって下さい!」や「姫さま遊んでー」など声を掛けていく。

 

「本当に、あんたは姫様らしくないなぁ」

「あら! それはどういう意味?」

「うちの国の姫様が1番っていう意味さ!」


 林檎ジュースをコップに入れ、手渡しながら店主は伝えた。

 誰にでも平等に接する気さくな姫を、店主だけでなく国民の皆が親しんでいた。

 否、レティシア姫だけでなくこの国の王族は民達との距離が近い。

 つい最近だと、畑の収穫で人手が足りず募集をかけた所、この国の王であるレントルが登場して収穫を手伝ったりしたのだ。

 最終的に妃であるマリアが探しに来て、怒られて連れて帰られていたが。と、まあ。こんな事は日常茶飯事だ。


「ふふっ! いい意味としてお礼を言っておくわ! ジュース有難う!」


 店主にお礼を言って果物屋を後にし、商品を片手に店を回る。


(暗くなる前に帰ればいいよね!)


 城の者、特に侍女テイラに探されていると知っていてレティシアは、いつも通り街を探索するのだった。

      

           *

 コンコンッ

 執務室の扉が叩かれる。机に積まれている書類を1つずつ片付けながらリザレス王国の国王レントルが扉を見ずに入室を許可した。

 

「入れ」

「失礼しますっ」


 扉を開けて入ってきたのは、自分の息子レオネルトだった。自分を訪ねてきたのがレオネルトだと分かると、書類に向けていた目線を息子へと変え動きを止める。

 

「どうした?」

「……っ僕は、反対です!」


 複雑そうな顔をしながら、苦虫を噛み潰した表情をする息子が突然否定の言葉を発する。何を言いにきたのか分かったレントルが苦笑いを見せた。

 

「情報が早いな、リリアに聞いたか?」

「リリアは何も言いませんよ。ヴィエトルリアとの婚約なんて僕は認めません!」


 この世界では男女共に18歳を迎えれば立派な成人として認められる為、18歳のレオネルトとリリアンはもう大人の仲間入りをしている。

 更に王族である為婚約者を決めていかなければならないが、名乗りを上げた者が厄介だった。

 ヴィエトルリア帝国の第2王子が、リリアンの婚約者候補に上がったのだ。


「帝国は! ……帝国はレーチェ様を殺した国ですよっ……」


 声を荒げようとして、グッと言葉を飲み込んだレオネルトの言葉にレントルはてのひらを強く握り締めた。

 

「憶測で物事を考えるのは良く無いぞ、レオネルト。殺されたかどうかは分からないんだ。レーチェは身体が弱かったから……」

「それでも、父上だって可笑しいと思ってる筈です。だって!!」

「この話は終わりだ。何も証拠がないのだ……

 安心しろ、私もリリアを他所に嫁がせるつもりは無い」


 帝国には断りの手紙を書くと、息子に伝えれば一旦は落ち着きを取り戻し、「お騒がせしました、ですが僕は今でも納得できません」そう言葉を残して執務室から去って行った。


 1人になった部屋の中では時計の針の進む音しか聞こえない。レオネルトは先程まで見ていた書類を片付けようという気になる事が出来なかった。


  《お兄様、私はヴィエトルリアへ嫁ぐわ》


 そう言って、他国へ嫁いでいった妹の事を引き止めるべきだったのか、レントルは今でも思い悩んでいる。


「レーチェ……」


 脳裏には、金色のストレートの髪がゆらゆらと揺れていた。

 

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