Chapter1-3
レティシアには、まだ自分の契約精霊はいなかった。早い者だと3歳位から、遅い者だと20歳位まで契約できない者もいる。
どう自分自身の契約精霊と出逢えるかというと、直感で感じるのだそうだ、自分の精霊はこれだと。
双子の兄と姉は自分と同じ6歳の時に契約精霊と出逢ったらしい。
「理屈じゃないのよ、私の精霊はこの子だって強く惹かれたの」
姉にどうすれば自分だけの精霊と逢えるのか聞いた時、目を細めながら懐かしむ様に話す。
「その時の嬉しさと、興奮は忘れられないわ」
その後、兄に同じ質問をしたが姉と同じ様な回答を得、自分も早くその嬉しさと興奮する様な感情になってみたいと強く思うのだった。
*
それから数ヶ月経った晴れた日、レティシアは父レントルと母マリアと一緒に泉へと出掛けていた。
暑い日が続いて項垂れていた娘に気を利かせて両親が連れて来てくれたのだ。因みに兄と姉は勉強があるのでお留守番である。
レティシアは国の為を思い国民に対して誠実であろうとする父と、同様に国民を慈しみ父を支える母を誇りに思っている。
両親が息子も娘も同じ様に愛情を注いで育ててくれている為、子ども達と家族の仲は良好だった。
「ティア、どうだ涼しいか?」
「父様涼しいわ。連れて来てくれて有難う!」
サンダルを脱いで、水に足を付ければ身体の火照りが和らいでいく。
泉の近くでは薄い透明に近い様な白色をした竜の落とし子達がふよふよと浮いている、それが水の精霊だ。
精霊は属性によって、其々姿形が違う。生き物に例えるならば、水の精霊は薄い白色の竜の落とし子で、火の精霊は赤い
父と母と兄は、水の精霊と契約しているが家族の中で姉だけが木の精霊と契約している。
リザレス王国では比較的水の精霊と契約する人が多い。自分達の祖先が水の精霊王の加護を貰い、気に入られたからだと言い伝えられているが本当の所は分からない。
でも、どの精霊よりも水の精霊が割合的に多いのは事実だ。
だからなのか国の一部の人達は自分たちの事を、水の護り人と呼ぶ。
「いつ来ても、ここの泉は綺麗ね」
木陰に座って日に当たらない様に涼むマリアは、銀色のウェーブがかった美しい髪を風に揺らせながら、翠色の目を細め呟く。
「この場所は昔から変わらないな、澄んでいて精霊達も多く集まってくる」
泉を見ながらレントルはマリアの隣に腰掛けた。
「それでも、段々と精霊達は数を減らしているわ」
「精霊への信仰が薄れたからなのか、各国で起きている戦争の所為なのか‥原因は全てにありそうだ」
「魔術師だって、元は精霊王達から分け与えられた魔力ですのに‥」
「悲しいことだ‥」
妻の
近年精霊達の力が弱まり続け、精霊の数も随分と減っている。その原因の1つと思われているのが戦争だった。
軍事力が最もあるヴィエトルリア帝国は、自分達の土地を広げる為、小国から侵略を始め。今では1番大きな国へと成長し、同じ大陸の帝国に次ぐ力のある南の国、ヴール国と争いを繰り返している。
そして2つ目の原因と思われるのが、精霊への信仰だとレントルは考えている。
精霊を使役できない魔術師達は、精霊への関心が低い、精霊を使役できるのは精霊師だけであるからだ。
つまり、リザレス王国出身の者しか精霊師になる事は出来ない。何故精霊師になれる者が自国の者しかいないのか、リザレス王のレントルにも国民も誰も知らない。
故に、精霊士より魔術師の方が圧倒的に多いこの世界では、精霊の加護を受けていないと思い、己の魔力を扱う魔術師達が精霊を信仰する事が無くなってきている。
しかし、レントルは魔術師も精霊師も精霊達のお陰で今の世界が出来ていると信じている。それは、昔からあるこの世界の古いお伽話を、自分の父や祖父から聞かされていたからで、今では世界の殆どの人々から忘れ去られている物語をリザレスの国民達は親から子へ子から孫へと語り継いでいる。
*始まりの物語*
昔々、精霊と人間がこの世界に住んでいました。
精霊と人間は関わりを持たず其々で暮らしていましたが、まだ世界が作られたばかりだった為に、飢えや寒さや環境によって何の力も持たない人間がどんどん死んでいきました。
その様子を見ていた精霊達の其々の王、精霊王達が人間に魔力を分け与え、生きる術を導きました。
そのお陰で人間達は魔力を使え、死にゆく者はいなくなり。より精霊王達に気に入られた者達は精霊達と幸せに暮らしました。
このお伽話は始まりの物語として、リザレス王国の者ならば誰でも知っている話だ。
精霊王達から魔力を分け与えられた人間が魔術師となり、精霊王達から気に入られた人間が精霊師だとされている。
永い時が過ぎ、このお伽話は世界から風化されていき、今では精霊との繋がりが無いと思っている魔術師が多い。
「今は戦争に巻き込まれ無いように、国を守るしかないな」
「そうね」
はしゃぎながら、精霊達と遊ぶ娘の姿を見つめ、このまま幸せが続く様にレオネルトとマリアは祈るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます