第37話
◆ルーベンside
【忍耐】で生き残った腐肉戦士を殲滅した俺は地面に寝転がり空を仰ぐ。周囲に山の如く積もった灰は、それだけ腐肉戦士が多かった証拠だろう。
ついでにデパートは、いつの間にか炎上していた。焼け石に水なスプリンクラーの音が聞こえる。人の悲鳴は聞こえなかった、逃げたか全滅したのだろう。
ちなみにリコリスと『姉』は、モンスターと違って死んでも灰にならなかった。
どうでもよくて忘れていたが、ゲームでもSR以上のキャラクターは灰にならなかったので、その設定を引き継いでいるのだと思われる。
達成感と疲労で何もしたくない気分であったため、デパートの崩壊や炎など気にせずゴロゴロしていると、俺の勝利を祝福する美声が響く。
〔お疲れ様、やれば出来るじゃない〕
「ありがとう、最後は敵のドジが大きいから満足とはいかなかったけどな」
〔その運も含めてアンタの実力よ。この私が褒めて上げてるんだから、もっと喜びなさい〕
「はははっ。十分に喜んでるし、悦んでるよ。俺がエリカから貰うもので喜ばない筈がない」
ただ、そう。今は全てを出し切るような戦いの勝利の余韻を味わっており、極端な興奮状態から極端な冷静状態へと移行している。いわば賢者タイムに近い心境だ。
エリカを無下にするつもりは毛頭ないが、エリカからすれば俺の反応が淡白に感じるのかもしれない。もしかして寂しいのか? やっぱりエリカは可愛いな。
〔そう? ならいいわ〕
どうやら特に寂しくなかったようだ。
俺の方が寂しくなったのでゴロ寝から体育座りになって地面に『の』の字を書く。
〔そんな事より、メッセージを開きなさい。面白いものがある筈よ〕
そ、そんな事……
ショックで放心するのをギリギリ堪えて、エリカの指示に従うと確かに
『能力』を得てから最初に色々調べた時以来、一度も開かなかった『メッセージ』欄で点滅する赤ランプ。それは『コグモ』でボッチの俺にメッセージが届いていることを示していた。
ボッチにメッセージを送る奴など決まっている。熱心なアンチか──
「運営から、か」
『人類の皆様、第一章クリアおめでとうございます。
第二章の実装は168時間後を予定しております。
それまでは、
記念すべき(?)『能力』を得てからの初メッセージは定型文のお祝いと事務的な連絡だった。これは俺以外にも送られているのか? まぁ、どちらでも構わないか。
それよりも重要なのは、さらなる強敵が保証されたと言う事だ。素晴らしい、
どうか、他の連中に倒されませんように。
そう祈りながら軽く目を瞑る。
〔どう? アンタの
「……最高だな」
エリカの声に、ゆっくりと目を開きながら噛み締めるように告げる。流石はエリカだ。俺への理解度が最高値に達しており最早、俺自身を超えるかもしれない。
それだけでなく、他の奴なら腹立たしいだけのSっ気もエリカだと俺の好みにド直球だったので、今でなければ狂喜して躍りたいくらいだ。
〔アンタなら、そう言うと思ったわ。せいぜい生き延びて私の期待に応えなさい〕
「当然だ」
けど、ずっと気になってる事がある。
「……俺に何を
恐らく、
秘密主義の彼女が教えてくれるとは考えにくいが、それでも今を逃せば二度と機会は無いかもしれない。
そんな思いが半ば無意識に口を動かした。
だから───
〔……いいわ。少しだけなら教えてあげる〕
この返答にはかなり驚いた。
今は余程、気分が良いのだろうか。余韻など吹き飛ぶ驚きがあり、即座に姿勢を正す。
〔アンタは私が、ずっと探してたヤツに
照れ隠しなのだろう。若干早口で捲し立てたエリカの「分かった?」は、質問の
それはそうと、返事に悩む。なにせ俺はエリカのフワフワした回答に確信が持てないのだから。
故に、俺が言うべき事は─────
「……分からなかった」
素直に白状した。
当然だが、エリカの質問(?)に無言を返すなど出来ないし、嘘を吐くなど以ての外だ。
どうしよう。この問答でエリカの
なにか挽回する方法はないものか。
〔なら、分かるように努力しなさい。私は自分にも他人にも厳しいのよ〕
よかった、怒ってなかったらしい。むしろ、まだ機嫌が良さそうな雰囲気すらある。
なら俺の答えは決まっている。
「勿論するさ。そして、エリカの期待なら応えてみせるよ」
絶対にな。
そうして俺はエリカとの逢瀬を堪能した。
◆???side
灰と瓦礫の山と化した黒い祭壇の儀式場に、偶然少女の遺体が落ちてくる。
その遺体は不思議なことに外傷はなく、けれども全身を紅で染め上げていた。
少女の顔は驚愕と絶望に満ちており、何かを求めるように掌を前へと伸ばしていた。
ここに誰かいれば、あまりの痛ましさに目を背けるか、晒された哀れな顔に布を掛け手を合わせたくなるだろう。
しかし、ここには誰も居ない。
あるのは何の役にも立たぬガラクタのみ。生物など皆無である。
そんな儀式場に謎の光源が転がって現れる。
それは少女のように降ってきた訳ではなく、壁の隙間から出てきたのだ。謎の光源の形は綺麗な真円の中に複雑な模様が刻まれており、俗に言う魔法陣の見た目をしていた。
どこかの一途な狂人が本の封印から開放した魔法陣である。
その魔法陣は儀式場の遺体を発見すると歓喜したように飛び上がり、そのまま少女の遺体に貼り付く。
すると、魔法陣は肌に溶けるようにして消え去った。
魔法陣が現れた事で微かな彩りを見せた祭壇も元の静寂を取り戻すかと思えば新たな異変が起こる。独りでに動く魔法陣など目ではない異変が。
「ぬぅ……」
間違いなく死んでいた少女の遺体が僅かに動き出し、声を上げたのだ。
蒼白く変色していた肌は白磁器のような純白となり、負の感情に塗れていた表情は少女らしいあどけない可愛らしさを感じさせた。
「姉上……」
苦痛と恥辱に濡れて死んだ少女は蘇る。皮肉にも自身の最愛を蘇らせるために用意した手段で。
このような現状を幸か不幸かは誰にも分からない。それでも寝言で最愛を呼ぶ今の彼女は幸せそうだった。
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これにて一章完結しました。
ここまで読んで下さった皆様は本当にありがとうございましたヽ(=´▽`=)ノ
殉愛の狂ゲーマー 〜俺は終末世界で推しキャラの最強を証明する〜 一味違う一味 @splatter-festival
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