第32話
『闇落ち』と対を成す『光堕ち』をご存知だろうか。
週間少年雑誌やドラゴンのクエストなんかで頻繁に目にする王道パターンだ。
主人公やプレイヤー達が苦労に苦労を重ねて、ようやく倒した敵が共に戦う仲間になる胸熱展開で、多くの創作で取り入れられる要素なのだが、ここに一つ落とし穴がある。
元敵の彼等は敵の時は強いのに味方になったら、高確率で弱くなるのだ。
今回のこれはキャラクターの
そして、多くの作品に取り入れられてるこの要素は『コグモ』にも含まれていた。ガチャ入手可能なボスキャラは弱体化するという形で。
具体的な弱体化内容は二つだ。全ステータスをレア度毎の上限枠まで落とすこと、そして
大抵、変更されるスキルはボス毎の最も猛威を振るったスキルとなるが、一章ラスボスであるリコリスは数少ない例外として他のスキルとなった。
これは当然だろう。なにせ【従僕生成】のないリコリスなど一つ下のレア度であるSSRよりも弱いのだから。
だからリコリスの弱体化スキルは二番目に強いスキルとなった。
その名を【翠涙に沈む】と言った。
◆ルーベンside
「教えろ、教えろぉぉぉぉっ!」
「あはははははははははっ」
笑う嗤う哂う。
弾ける腐肉、叫ぶ
俺は戦闘が好きだ。縛りを入れてのボス戦も、まず勝てるように設定されてないエンドコンテンツに永遠と挑み続けるのもだ。
だが、イージーモードだけは許せない。
弱い敵に、勝って当然の戦闘。そこに緊張感はなく、達成感もない。あるのはただ先に進めた事実と機械的な作業のみ。
今のリコリスと戦っていると、これまでの戦闘など全てお遊びに過ぎない事がよくわかる。
レア度Rの雑魚敵など言うに及ばず、数だけの腐肉戦士や【翠涙に沈む】を使ってなかった時のリコリスも口だけが達者な臆病者だ。
しかし、今は違う。
二発も喰らえばHPが全損する程に強化された無数の【自爆】に、リコリス自身が行うVITとパッシブスキルを活かしたタンク役。これで俺は容易に腐肉戦士へ【
ついでと言わんばかりに腐肉戦士に括り付けられたリコリス手製の『インテリア』も面倒くさい。
コイツも俺と同じ『能力』持ちなようで、瀕死の癖にリコリスの指示でショボイ攻撃してくる。まぁ、こちらはデバフ主体のようで俺に効果は薄いが。
「ほらリコリス。取り返してみろ」
「なっ、返せっ!」
姉の復活をちらつかせただけで、この頑張りようだ。ならば、杖を取り上げればリコリスはさらに頑張って強くなるのではないか?
そんな疑問の答えを得るべく実行に移したが、結果は大成功だった。彼女は口から唾を飛ばし、目を血走らせて襲ってくる。
俺の速度が未だに勝ってるからこそ、出来る芸当だな。
「ふざけるな! 殺してやる、殺してやるぞ!」
「はははっ、質問の答えは必要ないのか?」
そのまま【絶対制裁】のバフ解除と速度を活かしながらヒットアンドアウェイを繰り返し、隙きあらばリコリスを
リコリスが腐肉戦士の【自爆】でダメージを受けているのだ。
「そう言えば、腐肉戦士からダメージを受けないのは杖のお陰だったな」
リコリスに殺る気を出させるという点では大成功だったが、これは駄目だ。専用装備由来のパッシブスキルを二つも使えなくなるのは痛すぎる。
舌打ちと共に投げ返してやれば、ボロボロの体で杖を必死に抱き締めるリコリスが目に入った。
それはもう大切そうに。
「早く立て、そして戦おう。姉の生存証明はすぐそこだぞ」
「……」
しばらく立たなかったので発破をかけると彼女は無言で立ち上がった。
それでいい、もう
以前の面影が消えるほど凄まじい形相で睨んでくるリコリスだが、彼女が【翠涙に沈む】を使ってから一つの変化がある。
それは彼女の体を、足元から徐々に翠色の光が包んでいるのだ。この光はバフやデバフを与えるものではない。
この翠光こそ、リコリスの姉が生存していると証明なのだ。
ゲーム時代ではターン数の関係では有り得なかった翠化が全身を包み、リコリスが意識を失えば姉の生存は『証明』はされる。現在は、腹の辺りまで進んでいるので順調だろう。
リコリスの姉の力は凄まじいらしく、運営はリコリスの姉をストーリー終盤のボスにしようと考えていたらしいが、話の流れ的に出しにくくなり諦めたそうだ。
正直、思ってもいなかった強敵と戦えそうな事実に喜びが凄まじく、リコリスとの戦闘ですら楽しくて理性が飛びそうなのに、更に強い姉まで出てくるとは最高と言う他ない。無論、エリカ関連を除いてだが。
けれど、理性を飛ばす訳にはいかない。
何故なら以前のように手段と目的が入れ替わってしまうから。俺の最優先事項はエリカであり、他の全ては二の次三の次だ。
俺が必死に理性を手放さないように耐えながら腐肉戦士を殲滅していると、翠化が首まで進んだリコリスが俺へ話かけてきた。
「今まで不思議だったのじゃ」
まるで独り言のようなソレは、しかし俺の目を捉えて離さず、また交渉で事を収めようなどと言う逃げ腰は感じられなかった。
「なぜ、この玉を持っておれば『戦闘システム』以外の力を使えるのか」
そうして取り出したのは黒い水晶玉。これはこれで綺麗だが、やはりエリカの【阿鼻決別】から出る霧の方が綺麗だ。
リコリスは割りと衝撃の事実を言ってい気がするが、そんなことよりエリカに『証明』する事の方が重要なので、リコリスに対するリアクションは後回しである。
「それに関しては残念ながら妾の頭脳を持ってしても答えは出んかったが」
なら、言うなよ。そう思ったが、続きがありそうなので黙って聞く。頼むから今の気分を白けさせる事を言ってくれるなよ。
「じゃが、この玉が妾に力を与えてるのは本当なのじゃろう。クソな性格とは言え、神手製の品だけはある」
何が言いたいんだ? もうリコリスの翠化は終わっていた。くだらない話なら聞く価値はないし、さっさと姉を呼んでやろう。リコリスお望みのな。
「手に持ってるだけで、それなりの力を得られるコレを呑み込めば
長話に飽きた俺が、少し前に与えたダメージが抜けきらないリコリス諸共【同胞渇望】で蹂躙しようとしたところ、黒い水晶を飲み込んだリコリスに変化が起こる。
それは期待通りの結果であり、そして期待以上の結果でもあった。
「
それは、ストーリーで少し出たきりだったリコリスの姉と──
「ああぁぁぁぁぁぇぇぇっ!!」
白目を剥き、絶叫しながらも
「拾い食いして、理性も意識も失ったか」
姉が出てくれば意識を失い、戦えなくなると思っていたリコリスが戦闘行動をやめていないのだから。
現在の俺はノーダメージの【復讐誓約】のクールタイムも終わってる万全の状態だ。せいぜい問題があるとしたら全裸なことくらいだが、大した問題じゃないな。
そうして、未知の強敵に尋常ではないパワーアップを果たしたリコリスに突撃した。
─────────────────────────
下記はリコリスのステータスです。
ユーザーステータス
名前 :【ゆるふわ】(ロスト)
レベル:【147】
能力 :【リコリス】
クラン:【激ヤバ同盟】
ステータス【リコリス(UR)】☆5
愛情度:ー
能力値
・ATK:2000
・VIT:6000
・DEX:2000
スキル
・アクティブスキル
名称:【高貴なる掛け声】
効果:[味方全体に20秒のATK+20%のバフ]
名称:【領地繁栄】
効果:[味方全体を最大HPの10%回復]
名称:【球魂術式】(『味方』キャラクター時専用)
効果:[敵単体にATKの800%ダメージ、与えたダメージの50%自身を回復]
名称:【翠涙に沈む】(『敵』キャラクター時専用)
効果:[10秒に1度、自身に最大HPを1%削減、場の【腐肉戦士】全てに10秒の【自爆】、ATK+100%バフ付与](戦闘開始から200秒後に発動可能)
・パッシブスキル
名称:【従僕生成】
効果:[10秒に1度、キャラクターが戦闘不能になった枠に【腐肉戦士】を【召喚】する(この効果は敵味方を問わない)]
名称:【静寂の土地】
効果:[10秒に1度、場にいる【召喚】した対象の数×VIT5回復]
※パッシブスキル【従僕生成】の効果は腐肉戦士でも発動する
名称:【姉の献身】(※リコリス専用)
効果:[自身が【召喚】したキャラクターからの受けるダメージを0にする]
[【召喚】時、【召喚】した対象に【忍耐】を付与]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます