第33話
◆ルーベンside
「やったのは俺だ!」
そう、リコリスの『姉』である、空飛ぶ生首の質問に答えてやる。トドメは黒い水晶玉だったが、それ以外は俺(と、俺が原因だとリコリスが言い張る謎の現象)なので問題ないだろう。
不意打ちをしないというのはリコリスだけでなく、その姉にも適用される。『姉』もリコリス一味の一人であり、『証明』のための大事な敵なのだから。
「お前かぁぁぁっ!」
彼女は杖本体と自身の生首を分離すると、首の断面から急速に体を再生させ、リコリスを包む光と同色の翠光を手に纏い、殴り掛かってきた。
リコリスの姉ならばコイツも貴族だろうに、戦闘方法がステゴロとは一体どんな教育を受けたのだろうか。
「いや、
何せ彼女らは物心ついて間もなく、生来の趣味が原因で勘当されているのだから。『姉』の拳を避けながら、そんなどうでもいい事を考える。
しかし、
それが、軽く斬りつけてみた俺の感想だ。
今の俺はATKは未強化時の五倍はある。ただでさえ、ゲーム中最高クラスのATKを持つエリカの火力だというのに、それだけ強化されればスキルを使わない通常攻撃でさえ、並のURのスキル攻撃に匹敵する火力が出る。
だと言うのに、『姉』はまるで効いてる素振りはない。一応傷はつけられるのだが、僅かについた傷もパッシブスキルであろう回復力に癒やされてしまった。
流石は未実装だったとはいえ、後半ボスキャラと言ったところか。まだ喰らっていないが、翠拳も受けたら手酷いダメージがあるのだろう。いくら何でも理不尽に過ぎる。
「あはっ、あはははははははっ!」
でも、それが楽しい。
通常攻撃でもダメージを与えられるなら、スキルを使えば効果的なダメージが期待できる。それだけの火力が出るのはバカみたいに多い腐肉戦士のお陰だ。
俺には敵が増えるほどATKが上昇するパッシブスキルがあるので、こうして明らかに単騎で戦うべきでない敵と戦えているのだ。その点は感謝だな。
「おい、リコリス! 折角
『姉』が出てきてからずっとリコリスは発狂したように奇声を上げながら、のたうち回っていた。
彼女は黒い水晶玉を呑んだことにより、意識を失うほどの
ゲームでも、実際に会った今でも、まるで全てを捧げてでも叶えたい願いのであるかのように言っていたので、リコリス自身が生きてさえいるなら『姉』反応すると思っていたが、どうやら違ったらしい。
彼女にとって、口先の悲願達成より目先の苦しみに藻掻く方が重要なのだろう。
そう思ったが────
「ぁぁぁぁうぇぇぇっ!」
「あん?」
ただ悲鳴を上げてるだけだと思っていたリコリスの声に違和感を覚えた。
相変わらず床の上をのたうち回っており、その姿は
「ねうぇぇぇぇっ!」
「おっ」
どうやら俺の気の所為では無かったようだ。リコリスの心は生きているし願いも諦めていない。普通などではなく、しっかりと狂ってるようだ。
つまり、まだ戦えるということだ。現在の黒い水晶玉に強化かれているであろうリコリスと。
「死ねクソ野郎!!」
リコリスに目覚めの一発で【絶対制裁】でも当ててやろうと思って斬りかかれば、瓦礫の山に蹴り飛ばしていた筈の『姉』が攻撃してきた。
まだ二秒と経過してないのに凄まじい
さらに、今までの攻撃は翠色に光る拳だけだったと言うのに、
『姉』を中心に広がる翠色の粒子はリコリスの命令がくるまで待機していた腐肉戦士にもダメージを与えて俺へ迫ってくる。だが、無防備に受けるつもりはない。
「お前が死ね!」
子供の言い合いのような返答と共に【同胞渇望】を放つ。
見たところ『姉』の範囲攻撃は【同胞渇望】と同じく、物質には干渉しない生物(?)のみにダメージを与えるスキルだ。
ならば、俺も似たような原理の【同胞渇望】を放てば相殺できるのではないかと考えた。
「はっ!?」
結果は大成功。
『姉』の驚く声は、迫り合う黒と翠に掻き消される。
スキルのぶつかり合いは、互いに気体のような見た目をしてるというのに、その威力は凄まじく大気が揺れるような競り合いを繰り広げていた。
「っ!」
やがて黒蛇が翠光を食い破り、そのまま『姉』へ牙を剥いた。
正直、この結果は想像以上だ。
せいぜい、相手の攻撃を掻き消すのが限界だと思っていたのだから。流石はエリカのスキルである。エリカ万歳。
本来の性能を考えれば
しかし、敵も見事なものだと思う。『姉』として
奥歯が砕けるほど噛み締め、全身を襲っているであろう脱力感を耐えきった。
でも、まぁ──
「ア゛ア゛ァァァァァァッ!!」
無駄なんだけどな。
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