第31話

◆ルーベンside









「あはははははっ。わらわから奪おうとするから、そうなるのじゃ!」




 寝起きにリコリスの高笑いが聞こえてくる。『能力』を得てから目覚めて最初に聞く声はエリカのものばかりだったので、なんとなく連勝記録を邪魔されたような気分になる。


 しかし油断した。リコリスはゲームあるあるの敵対時と味方時のスキルが違うキャラクターなのだが、先程リコリスが使ったスキルは敵対時のスキルなのだ。


 当然の如く、味方の時より強力なソレは当初こそ警戒したが、戦ってる時に使っていたスキルは完全に味方時のモノだったので予想外だった。




「姉上、わらわはちゃんと祭壇を取り戻したぞ。褒めて下され! 姉上、姉上、あねうえ~」




 こちらに背を向けながら杖に頬擦りするリコリスは、クネクネと腰を揺らして甘え声を出していた。俺が起きてる事には、まだ気付かない。




「ご機嫌だなリコリス。そんなに良い事があったのか?」




 最初に会った時のように話し掛けてみる。自らに課した不意打ちをせず正面から戦うという誓いがあるため、こんな絶好の機会もスルーだ。


 ちなみに話し掛けたのは復讐遊び心だ。死ぬほど驚かせてやる。




「おおっ、ルーベンか! 聞いてくれ、ついに祭壇を奪った怨敵であるルーベンを倒したのじゃ! いや~めでたいのぅ」




 誰かに語りたくて堪らないと言わんばかりに、俺へ喜んでいる理由を教えてくるリコリス。まだ、俺には気付かない。




「あれは壮絶な戦いじゃった。無数の策謀を巡らせる切れ者と言っても過言ではないルーベンは、暴力にも秀でておった」



「ほうほう、それでそれで?」




 聞いてもいない作り話を始めたので適当に相槌を打つ。だから策謀って何の話だよ。そして、まだ俺には気付かない。




「その策を全て妾は看破し、(姉上への)愛と(腐肉戦士の)勇気で見事、討ち取ったのじゃ!」



「それは凄いな。おめでとうリコリス」



「うむ! ありがとうなのじゃ!」




 とうとう俺へ振り向き満面の笑みを浮かべるリコリス。


 それはゲームでも見たことが無いほど、可愛らしい笑顔で見る者の心を浄化するような清純さを秘めていた。そして、まだ俺には気付かない。




「見てくれルーベン。ルーベンを討ち取った事で姉上も嬉しげな表情を……ルーベン?」



「なんだ? お呼びのルーベンだぞ」



「……」



「……」




 素晴らしい笑顔のお礼に、俺からも額に青筋を浮かべた笑顔を贈るとリコリスはプルプル震えながら黙ってしまう。


 なんだ、トイレか? 逃しはしないがトイレが終わるまで待つぞ。


 というか、そろそろ俺には気付いたか?


 さっきと変わらず杖に頬を押し付けているがデレデレしてた先程とは違い、今は人見知りの少女が母の腕を掴んだ時のように小刻みに震えていた。




「ギ……」



「ぎ?」



「ギャァァァなのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」




 う、うるさい。しかも、こんな時まで似非お嬢様口調を続けるとは何かこだわりでもあるのだろうか。まぁ、どうでもいいが。


 さて、欲しかった反応も貰えたし続きをしよう。もちろん、話ではなく戦闘のな。服は消し飛んだので全裸だが問題ないだろう。


 【阿鼻決別】は爆発の時に何処かへ飛ばされた筈だったが、いつの間にか近くの床に刺さっていたので拾った。流石はエリカの専用装備だ。エリカ万歳。




「な、何故お主は生きておるのじゃ? お主は確かに死んだ筈……」



「そうだな、確かに死んだな」




 【復讐誓約】で復活した俺だが、このスキルで復活するには一度HPが0になる死ぬ必要がある。これも嘘ではないだろう。


 つーか、まだ話を続けるのかよ。早く戦おうぜ。




「と言う事はお主。死者蘇生の方法を知っておるのじゃな!」




 …………あー、そうきたか。いや、リコリスの願いを考えれば、こうなるわな。遊ばず、有耶無耶にしてさっさと戦うべきだったと後悔する。


 この調子では、まともな戦闘など期待ない。エリカに最強の『証明』をするには俺が上手く必要があるみたいだ。




「教えてくれ。いや、下さいじゃ! 妾はどうしても姉上に生き返って欲しいのじゃ! 祭壇でも何でも差し上げるのじゃます!」




 反魂の魔導を得意とする自身がついぞ確実な方法を見つけられなかった完全なる蘇生が目の前にある。リコリスが正気でいられる筈がなかった。


 敬語と普段の口調がゴチャ混ぜになり訳の分からない語尾だったが、今のリコリスには些末な問題なのだろう。


 だが、リコリスは勘違いしている。俺の復活はエリカのスキル体質由来のものなので詳しい方法など知るはずがないと言う事。そして……




「お前の姉は死んでないから死者蘇生しても蘇らないぞ」



「ど、どういう事じゃ!?」




 そう、リコリスの姉はそもそも死んでいないのだ。リコリスが『死』に関する魔導の天才なら、姉は『生』に関する魔導の天才だ。


 それは例え生首になり武器として振り回されても無意識に使える魔導のみで命を繋げるほどの才能がある。


 まぁ、仮死状態でありリコリスの献身的な手入れがあってこそ、辛うじて保てている命だが。それでもエリカのように特殊な体質もなく生きているのは驚異だろう。


 だがそれは、普通にしてても誰にも分からない。心臓も止まり、首から下を失って、身動き一つしないのだから。


 俺が生きてる事を知っているのは運営が発売した裏話集を買っていたからこそである。




「それを今ここで証明することは出来ない。けど、一つだけ方法がある」



「な、なんじゃそれは? また嘘なら承知せんぞ。この嘘だけは許すことは出来ん」




 そもそも、俺は嘘なんて一度も吐いてないんだが……


 しかし、それを言い始めると収集がつかなくなるだろう。そうなれば本末転倒だ、どの道リコリスは俺に殺される運命であり、そんなコイツが何を思おうとどうでもいいので止めておこう。


 さて、リコリスの姉が生存している証明だが、これは少し面倒な手順が必要になる。


 リコリスは見ての通りシスコンだが、彼女の姉も負けず劣らずのシスコンだ。なんなら今現在も命を繋げてる最大の理由はリコリスにメチャクチャ構って貰えて嬉しいからである。


 その感情で魔導がブーストされ何とかなってるようだ。意識がないのに、そんなこと関係あるの? と言う人間もいたが俺は寝ても覚めてもエリカを感じ取れるので、リコリスの姉が同じようなことをしても不思議ではないと思っている。


 そんなこんなで生き永らえてる姉が誰の目にも明らかな形で『生』を示す時があるらしい。




「俺と戦うことだ」




 正確にはリコリスの絶対的なピンチだが。


 さっきの俺がしたような半端な追い詰め方ではなく、どう足掻いても死が運命付けられてるとしか思えない程の絶体絶命の危機。


 何故、俺と戦う事が姉の疑似復活条件になるかと言えば俺がリコリスと戦えば彼女を確実に直前まで追い詰める自信があるからだ。




「ほぅ?」




 目の色を変える、とはこの事だ。縋るような目付きを止め、鋭く目を細めたリコリスは先程の尋常ではなく強化された【自爆】を連発した時のように翠の涙を流し始める。


 通称、『リコリス第二形態』と呼ばれる状態に。


 どうやら上手く乗せられたようだ、復活前に俺を侮辱した恨みと最強の『証明』のため、倒す事が確定しているリコリスであるが、今のように万全でないと倒す意味がなくなる。


 故に、リコリスが本気になってくれたのは嬉しかった。




「ならば、お主の体に直接聞くとしよう。わらわに方法を聞かせるまで、に死ぬでないぞ?」




 アホの子リコリスは消え、代わりに居たのは一匹の修羅だ。見るからに相当な負荷がある、そのスキルをリコリスは惜しげもなく使ってい、それに留まらず挑発までしてきた。さっきまで恐怖に震えていた彼女が。


 ここまで来れば俺が、することは一つだ。





「はっ、返り討ちにしてやるよ」




 快く彼女の煽り挑戦煽り返受諾した。

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