第14話

 『地雷』をご存知だろうか。


 兵器としての物理的な地雷ではない、比喩表現として個人ごとの踏み込んでほしくない領域の方の『地雷』だ。


 『地雷』を踏まれた側の対処は大きく分けて二つあると思う。


 一つ目は踏んだ相手と戦うこと。自身のマイルールを侵した罪人に対し「見るな」「知るな」「探るな」と口撃、攻撃を問わず行い相手を排除することだ。


 二つ目は戦わないこと。利益、諦観、優しさ、迷い、様々な理由があるだろうが、マイルールを侵した相手を許容し、その場を明け渡すことだ。稀に自身のマイルールそのものを曲げ戦略的撤退を成し遂げる者もいるが、それは殆ど敗北を認めているようなものだと思う。


 そう、二つ目の理由は敗北しているのだ。自身の定めた在り方を歪め、個性を削り、量産品への道を進む、そんな選択肢。


 別に量産品が悪い訳ではない。自分が生きやすいように行動するのは当然だと思うし、『流行』という大きな流れに身を任せる安心感も知ってる。それらのためならば、大切な物の一つや二つを捨てても安いものだという人も多いだろう。


 だが、極稀にマイルール大切なものを捨てられず、一つめの選択肢を選び人間がいる。


 それが、社会不適合者俺達だ。俺達は他人から見ればガラクタにしか思えない『大切な何か』を後生大事に抱え、時に命すら掛けてそれを護る。


 代わりがあるなら、そんなことはしない。そんなモノは存在せず、存在させないのが俺達である。


 俺で例えるなら、仮に俺が死んでもエリカを守る代わりはあるだろう、でも俺にとって護るべき対象はエリカ以外に存在しない。護るべき対象が欲しいからエリカを護っている訳ではなく、エリカだから守っているのだ。




「そして、エリカも社会不適合者こちら側だ」




 恐らく、俺が見た夢はエリカの過去だったのだろう。何故分かったかと言うと、ゲームストーリーでエリカの過去を聞いたキャラに対し同じような対応をしていたからだ。


 そして過去の話こそエリカにとっての『地雷』。それなのに、エリカは俺を特に咎めることなく引いた。これは異常事態だ、ゲーム時代を考えれば有り得ないと断言したいほどの。


 何故、エリカの過去を見れたのか理由は分からないが、不快にさせたのだから出来る事なら謝りたい。しかし、それはエリカに対する侮辱だろう。


 どんな経緯であれ彼女が許容した事を、『地雷』を踏んだ罪人の価値観で否定し、遠回しとは言え彼女の対応が間違っていたと認めろ、と迫るなど出来るはずもない。


 そんな事をすれば、今の不安定なエリカではどうなってしまうか分からないからだ。


 下手をすれば、そのまま間違っていたと思ってしまい、彼女は全ての信条を折ってしまうかもしれない。一つ折れればドミノ倒しになるなど何事においても珍しくないのだから。


 そうなれば、エリカの心を殺すに等しい行為となる。俺の愛した今までのエリカを。そんなことは断じて出来ない。


 俺が生きる理由はエリカへ愛を『証明』すること、本来ならゲーム時代からの目標である最強を『証明』することで愛の『証明』としたかったが、仕方ない。




「覚悟を決めよう」




 これはエリカの『大切なもの』を護る為だけではない、俺自身の『大切なもの』を護る為の覚悟だ。


 俺が何の覚悟を決めたか?


 簡単だ。俺の心が許容できない事の覚悟を決めたのだ。


 俺は心の死すら受け入れ、この覚悟を『証明』の一つとしよう。今回、エリカが『迷った』理由を聞き出し、その原因を取り除く。


 俺がエリカに誓った『裏切らない』という言葉を護り抜く為に。俺の全てはエリカの為に。




「なんだ、いつも通りじゃないか」




 違うのは俺の心への被害も勘定に入れてる事だけ、何も問題はない。むしろ、今まで足りなかった覚悟を決めた事で、より良いものへ仕上がったのではなかろうか?


 ならば進める。俺は俺の『大切なもの』を折らないままに。




「オァァァッ」




 その時、中央に吊るした『飾り』が大きく咆えた。

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