第15話

◆ルーベンside









「オァァァッ」




 俺が一世一代の覚悟を決めた時、中央に吊るしていた『飾り』が何時の間にかゾンビとなって大きく咆えた。


 その声は哀しげに、されど憎悪からくる力強さに満ちており、『飾り』から伸びた『モール』が呼応するように蠢く。




近くに居たのか」




 『飾り』がゾンビと成るのは想定内だった。なんなら成るのを待っていたまである。ヤツの怨嗟の声を締めとし部屋を出ようと思っていたほどだ。


 しかし、ヤツの上げた咆哮は俺の待っていたものと少し異なる。


 この咆哮はゲームで知ってる、特定の仲間を呼ぶアクティブスキルだ。ただの人間型ゾンビが唯一所持するスキル【弱者の権利】。


 これは特定条件でしか発動しない欠陥スキルだが、人間型ゾンビのレア度がNなのを考えれば割と強力なスキルだった。




「探していたら見つからなかったのにな。ゲームが現実を侵食したから『物欲センサー』も一緒に実装したのかね?」




 エリカの『能力』のお陰で強化された聴覚が、ガチャガチャと迫る金属音を捉えた。思ったより早く来そうだな。


 【弱者の権利】は通報をイメージしてデザインされたスキルだ。一般市民が被害にあった時に警察を呼ぶように、普通の人間型ゾンビはゾンビの治安維持を担当するヤツを呼ぶ。


 その名は【腐肉戦士】。『蠱毒の蜘蛛糸』にして、エリカと同格であるレア度URから無限に召喚される、レア度Rの特殊なキャラクターだ。


 そして一章ラスボスである【リコリス】の『能力』を貰えるほど、使い込んでいたユーザーは一人しか思いつかない。




「絶対に逃さない」




 ユーザー名は『ゆるふわ』。こいつは自称女の鬱陶しいやつだ。名前通りの頭が緩い言動をしていたがバトル編成は全然緩くなく、むしろガチガチに固められている。


 彼女のリコリスを生かすことだけを考えた戦い方は俗に『ゴキブリ戦法』と呼ばれており(本人は決して認めないが)、その名の通りと耐久性を活かしたゴリ押しを得意としていた。


 そんな戦法を可能としたリコリスの代名詞と言えるスキルが【従僕生成】、その効果は先述の腐肉戦士を呼び出すものだ。


 別に【召喚】系スキルを持つのはリコリスだけではなく、【召喚】そのものが強力だという事でもない。それなのに【従僕生成】がリコリスの代名詞となったのは、それ以外に有している凶悪な効果にあった。




「ゴブジ、デスカ?」




 来た。腐肉戦士だ。


 崩れそうな腐肉を朽ちた鎧で包んだコイツは、心配の声を上げるも視線は俺に向けられ、保護対象である筈の『飾り』ゾンビには一瞥もなかった。


 それも当然かもしれない、先程のセリフは呼び出された時の定型文であるからだ。きっと深い意味など無いのだろう。


 俺の考えを肯定するように錆びた槍を構え突撃してくる。今までの我武者羅がむしゃらに突撃するしか能のない人間型ゾンビと違い、武術の心得を感じさせた。


 それにステータスも桁違いだ。腐肉戦士は召喚者リコリスの能力値によってステータスが変動する、リコリスの『能力』も俺が考えるユーザーが使っているなら最大値まで強化されてると考えるのが自然だ。




「まぁ、そんなの誤差だけどな」




 難なく槍を掴み取り、お返しとばかりに殴り飛ばす。超格下レア度Rのスキルも使わない通常攻撃程度では余程のバフを掛けない限りダメージ負わない上、仮に余程のバフが掛かっていたとしても俺の一撃死は有り得ないので、こんな槍掴み曲芸を試した訳だ。


 俺が一撃死することはなくとも、腐肉戦士が俺の通常攻撃で一撃死するのは普通だ。むしろステータス差を考えれば死なない方がおかしいと言える。




「やっぱ、そうなるか」




 吹き飛ばされた先で壁に食い込んだ腐肉戦士は、欠けた手足で起き上がろうとしていた。 


 少し話を戻すが、『ゆるふわ』はバカみたいな名前に反して強い。その強さは、かつて俺がユーザーランキング一位を取った時に立ちはだかり、夢破れ惰性で続けていた時もランキング争いをしていた、と言えば伝わりやすいだろうか。


 本来、耐久編成ならば俺のエリカを主体とする超火力編成と相性が良く、固めた守りの上から捻り潰せるのだが、彼女の『ゴキブリ戦法』は違った。


 その理由の一つが腐肉戦士を【召喚】した際、自動で付与される【忍耐】バフだ。その効果は致死攻撃を受けても一度だけHP1で耐えるというもの。簡単に言えば某パズルゲームの『根性』と同じ効果だ。


 そして【忍耐】バフを最大限に活かすのが、腐肉戦士のアクティブスキルだ。




「【滅私メッシ……ホウ……コウ】」




 そうして唱えられたスキルは、周囲を破壊していくと共に、敵として初めて俺にダメージを与えた。

















 『蠱毒の蜘蛛糸』ではターン制ゲームによくある上限ターンが設定されている。そうでなければ互いに攻撃しなかった場合、永遠に決着のつかないバトルとなってしまうのだから当然の措置だろう。


 では、耐久パーティは上限である30ターンまで耐久し続けるのが目的か。それは否だ。タイムアップはユーザーにとって一部を除き敗北扱いとなるからだ。


 ならば、ダメージを稼ぎ敵を倒す方法がある。しかし『ゴキブリ戦法』で使用されるリコリスを含めた五体のURはアタッカーではないので大したダメージは稼げず、そこは腐肉戦士に任せるしかない。


 では、周りにいるUR達から三段もレア度が劣る腐肉戦士が、どうやって敵を倒すのか。そして、五つしかない枠でどうやって腐肉戦士を【召喚】するのか。


 それらは──




「『ゆるふわ』は推定五十メートル範囲内か」




 爆煙からで姿を現したの腐肉戦士で説明がつく。


 先程、俺が追い詰めた腐肉戦士の使ったスキル【滅私放光】は自身に【自爆】バフを付与するスキルだ。


 ダメージ量は驚きのATK2000%、火力超特化キャラであるエリカの最大倍率1200%を遥かに凌ぐ倍率だ。しかし、レア度Rが何の代償もなく、そんなスキルを使える筈がない。


 その代償とは、自身のHP全損とだ。つまり、2000%倍率の火力が味方にも牙を剥く。レア度Rと言えど無視出来る火力ではなく、一歩間違えれば敵より先に味方の方が多く死ぬなど当たり前だった。


 ただ、それだけでランキング上位をキープ出来る筈がなく、リコリスの恐ろしさは、ここからだ。




 名称:【従僕生成】


 効果:[10秒に1度、キャラクターが戦闘不能になった枠に【腐肉戦士】を【召喚】する(この効果は敵味方を問わない)]




 【姉の献身】(※リコリス専用)


 効果:[自身が【召喚】したキャラクターからの受けるダメージを0にする]


    [【召喚】時、【召喚】した対象に【忍耐】を付与]





 これがリコリスの代名詞たる【従僕生成】と専用装備のスペックである。()内の説明文は、そのままの意味だ。戦闘中、死亡した事で空いた枠のに腐肉戦士を召喚するのだ。


 さらに、【従僕生成】はでも効果を発揮する。これと専用装備の効果により、リコリス自身はダメージを負うことなく腐肉戦士を無限量産し敵を物量で押し潰すのだ。


 【滅私放光】では、【自爆】発動までに20秒(ゲーム時代は2ターン)あるとは言え破格の性能だろう。まぁ、エリカと違い目立ったデメリットが無いため他の多くのスキルが弱く設定されているが。


 クソッ、ゲーム時代は何でこんなチートスキルを持ったリコリスが非難されずエリカだけが非難されたのかマジで分からん。リコリスに限らずとも、他にも理不尽なスキル持ちは山程いたのに。




「まぁ、全員に落とし前付けさせるけどな」




 初志貫徹。


 エリカの最強『証明』を諦めた訳ではない俺は、最初の復讐対象ターゲットを発見した事に歓喜した。











──────────────────────────


下記は腐肉戦士のステータスです。





ステータス【腐肉戦士(R)】☆0



 親愛度:ー


 能力値


・ATK:1000


・VIT:1000


・DEX:1000



 スキル



 ・アクティブスキル

 

 名称:【滅私放光(めっしほうこう)】


 効果:[自身に20秒の【自爆】バフを付与]



 ・パッシブスキル


 名称:【従者の証】


 効果:[自身を【召喚】したキャラクターが戦闘不能となった場合、自身も戦闘不能となる]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る