第3話

『おそろい ニ なった ようです ネ』


 キーという音とともに、なんだかカクカクとした声が聞こえた。

「ろ、ロボット!?」

 砂時計のような形をしているそのロボットは、長い手を器用に動かしながら、エイタもふくめた八人をじゅんじゅんに指さした。


『あなたがた ハ えらばれタ こどもたち デス』


 さっき聞いたよ、と、気の強そうな少女がつぶやくのを聞いたエイタは、このロボットが最初から説明をしてくれているのだとわかった。


『サンダーはかせ ニ みとめられタ はちにん ノ こどもたち』


「サンダー博士……?」

「なんか、世界的にチョーえらい博士なんだってさ。わたしたち、その博士にえらばれたんだって」

 マナがエイタに説明する。

 サンダー博士という人に会ったことはないけれど、その説明はなんだかもっともらしくて、エイタはただただ「へぇ~~……」とだけ声をもらした。

 ロボットはほんの少しだけうつむいて、八人をもういちど見た。


『はかせ ノ のこした たから ヲ みつけて クダサイ』


「宝ぁ!?」

「宝って、なに? なになに? 宝石?」

「どこにあるんだよ、そんなの」

 その話まではまだだれも聞いていなかったらしく、部屋は大さわぎになった。

 

『たから ハ これから いく せかい デ さがして もらいまス』


「世界……? アメリカとか、ヨーロッパとか?」

「だから船なの?」

「えー、ふつう、飛行機じゃないのかよう。船って何日かかると思ってんだ」

「どうしよ、ママになんにも言わないで来ちゃったし……」

「俺だって!」

 エイタの頭に、学童で遊ぼうぜ、と約束した友達の顔がうかんだ。

 約束やぶられたとか、怒ってたりしないかなぁ。

 だがし屋のソースせんべいでゆるしてくれるかなあ。

 

『がいこく デハ ありませン』 

『このふね ハ べつ ノ せかい ヲ たび スル ふね デス』


 ロボットはとても落ちついた様子でそう言った。

 ロボットなんだから、当然なんだろうけれど。

 

「なに、別の世界って?」

「あのう……もしかして、アレかな?」

 ヒュウガがおずおずと手を挙げて言った。

「ボク、本で読んだことあるんだけど。ここじゃない世界。異世界っていう……の?」

「異世界っ!?」


『ソウデス』


 ロボットはあっさりと言った。

「……マジで?」

 そんな声が、あちこちから上がる。


『みなさん ハ とくべつ ナ こと ノ できる こども』

『はかせ モ きたい シテ おりまス』


「え…………?」

 ヒュウガの小さなつぶやきが、エイタの耳にとどいたけれど、エイタは今起こっていることを整理するのにいっぱいいっぱいで、そこまで考える余裕がなかった。

 ロボットがすーっと別の部屋に向かう。

「ちょっと待てよっ、まだ話はっ」

 一番背の高い少年がロボットを追う。

 エイタたちもそのあとを追った。


『まいりまス』


 ロボットがぴたりと止まった部屋は、船の操縦室のようだった。

「まいりますってどこに!? 異世界に!?」

 マナがさけぶ。

 船のつくりにしてはいやに近代的なその操縦室のボタンを、ロボットは簡単に押していく。

 船全体が地震にあったようにゴゴゴゴとゆれだした。

「わあっ」

「きゃあっ」

 柱につかまる者、転んでしまう者……それぞれさけぶ八人を乗せたまま、船はふわりとうかび上がった。


『せかい ノ なびげーと ハ しょうたいじょう ニ おまかせ くださイ』


 そんなロボットの声を聞いたか聞かなかったかのうちに、八人は目を回してしまった。

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