第18話

 目が覚めるとかつてないほど気持ちが晴れやかだった。15歳の誕生日。

体の、悩み部分に触れる。

それは顔の部分かもしれないし。お腹かもしれない。背中、うなじ。コンプレックスとは違う。いや、同じなのか?気にしていれば。生まれつき、隠したいような、治して欲しいような。コトハの場合はなんだろうか。もしかしたら脱毛症かもしれないし青田母斑かもしれない。火傷の痕かもしれない。

 それでも、コトハは15年生きて、つぎの365日を生きていくつもりだ。

 物語は、もう、書けない。

 せっかくスッキリした気持ちで起きたのに、もう失恋した気分だった。

 普段と違うことをしてみようと思った。

 起きてすぐ、カーテンを開き、窓を開けて、風と日光をあびる。

 お隣さんに見られたら嫌だ、と思って。

 ちがう、引っ越したから周りに家はない。

 そとは、雨だった。

 嬉しかった。なぜだろう。

「雨だ」

窓を閉めて、机の上のルーズリーフに向かう。


クロハ。


ギンカ。


やがていつか、何の意味もなくなる文字かもしれない。

夢じゃない。持ち帰れた物も何も無い。でも。

 今回も池のある物件へ引っ越した。あの日の錦鯉は今でも元気だ。雨の中朝から池へ向かう。

「どうして黒と、銀色なの」

他にも何匹か泳いでいたがその2匹が寄ってきた。餌はもっていない。

(私15歳になったよ)

鯉に伝えてもしょうがない。この子達の名前もつけたりしない。

ただ。

夢のある話だった。


 

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