第8話

「起きてしまったのか、コトハ」

「いま?でも、きっとすぐに眠れるよ」

黒と銀の石鹸の香りの。

ここは、

「ねてる……」

「そうだよ、机にもたれて眠るだなんて、器用だね……」やさしく、笑い、ギンカがこちらを見てくる。

「ギンカの目の色、初めて見た。きれい」

「!あまり見ないで、気持ちで、色が変わっちゃうよ……」

 そう言いつつ、手の甲でパーを作りながら目を隠すギンカの頬は赤くなっていた。

 一方、クロハは、うとうとしていた。

「こんなに想っているのに、気持ちが、届かない、ちがうのか、届かないのではなくて、伝え方か」

そういうと、クロハはギンカの目の届かぬところで、コトハの顔面にキスをする。


!!!!!


眠い。眠いのだけれど。さんにんのぬくもりのまじったあたたかい茶色の毛布がこの世の幸せのようにコトハに多めにかけられている。


寝てしまう。


男の子が瞳を覗かれて照れて赤くなるのを初めて見た。

愛の伝え方のわからない男の子が行動で示してきて混乱した。


コトハ。10歳。まだ子供だ。でも、12歳のギンカも子供だし、15歳のクロハも子供だ。


やがてクロハが眠りについて、ずっとコトハを抱きしめる。そして、ギンカはコトハが眠るまで手を握ったり、髪を撫でたりする。普段の兄への対抗かもしれない。


「ふたりとも、きょう、わたしがずっとおきてて、っていったら、おきててくれる?」


うとうとと、呟くと。ふたりの愛にくるった兄弟は。


「……起きていてもいいが」

「ずっときみの寝顔をみることになる、眠くても」


それをコトハが望むなら。


このふたりは優しすぎる。優しい人の人生を変えることになるかもしれない。夢の内容を話すんだ。


ねえ、クロハ。

ねえ、ギンカ。

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