第4話

もっと本当は、騎士のような、あるいは詩人のような愛の言葉で。


コトハに囁きたいのに。


コトハという少女はこの世のすべてを知らなかった。最初に迫ったのはクロハだった。


「良い人にはもう既に良い人がいる、そんな言葉がある。どういう意味かわからなかった。でも今ならわかる。コトハ、お前は僕にとって特別な存在だ。今日初めて会ったこの日が一番の幸運。コトハ、お前に好きな者はいるか?もう恋人がいるか?」


「お兄さん!わたし、まだ、10歳です!気になる男の子の話とか、悩みがずっとあったからあきらめてきました!だから、そんなふう、こんなふうに!」


壁に追い詰められて、細身なクロハに小さなコトハは標本にされそうな蝶のように閉じ込められる。


「イイひとなんて、ほかに、きっといますから、近くにこすぎないで」


強引なクロハにコトハは迫られてばかり。それでもそれはすぐに解放してもらえる。クロハ自身も、強引になっていく自分に、心が暴走してコトハを抱きしめたくてたまらなくなってしまうのだ。

(これは妖精の呪いか、それとも、愛しさからくる切迫なのか、しかし傷つけたく無い、嫌われたく無い、ああ、どうしたら!)

クロハの心境は、生まれて初めての恋に染まる。


一方、外で過ごすことの多いギンカはコトハを兄から遠ざけたいから外へ。一緒に連れ出そう!と思い執筆の合間や、兄が一筆絵を描いている隙に。

「ねえ?コトハちゃん?スミレノサトウヅケ、って言葉、知ってるかな?あっ、へんな言葉だったらごめんね!君みたいに。まるで、違う世界から逃げてきたお姫様や、願いを叶えないとしおれてしまう妖精さんたちが残した言葉のひとつなんだけど。ほかにも、ジェットコースター、っていう、なんだろうな。コップを置くコースターみたいな。鍋敷のような。いろんな話があるから、だから、俺との話、いっぱいしようよ?だめ?」

 刈られたように、ざくざくと切られた銀髪の、少し伸びた部分が日の光を受けてとろかすようにこちらを温めてくる。


コトハは迷っていた。


「クロハも、ギンカも、他に素敵な合うひとがいるとおもうの」


それは夕方。声に出して、髪とペンと向かい合い。ふたりの住む部屋で机と椅子に染み込ませるように言う。


それを、ふたりは聞き逃さない。

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