うさちゃんとの夢

神崎 小太郎

祈り歌

 


 わたしは、もう長くは生きられないかもしれません。白血病という重い病気にかかってから、お医者さまの言うことを守って、治療を受けている。

 でも、どんどん弱っていく自分の体を見ると、もうすぐお星さまになるのではないかと思います。


 わたしの名前は、相川 愛夢あいかわあいむ。両親が素敵な名前を授けてくれました。元気なら、幼稚園の年長組に通っていたはずです。

 

 なのに恐ろしい病気で、もう長くは生きられない。お母さんとお父さんは、とても悲しそうです。でも、泣いたりしません。


 なぜならば、いつもそばにいてくれる大切なうさぎのぬいぐるみ、うさちゃんがいます。彼女は、わたしと一緒にお星さまになってもいいと言ってくれました。


 だから、わたしは怖くありません。


 うさちゃんと一緒に、空を飛んでみたいです。きれいな花や動物やお菓子がいっぱいの場所に行きたいです。そこで、うさちゃんとずっと遊びたいです。


 だから、もう泣いたりしません。


 今日は幼稚園のクリスマス会に参加できることになりました。ママが病院の先生にお願いしてくれたらしい。一年ぶりに仲の良い友達に会えるのがとても嬉しいです。パパの車で病院を出発しました。


 窓から外を見ると、雪が降っています。白い世界がキラキラしている。初めて見る冬景色です。幼稚園に着くと、先生や友達が笑顔で迎えてくれます。

 初めてサンタクロースさんにも会えました。今日は不思議な日だ。白いひげに赤い服のおじさんはわたしにも近づいて声をかけてくれます。


「大丈夫だよ。神さまの思し召しはやさしいからね」


 温かい言葉が届いてくる。

何だかよく分からないけど、涙すら浮かんでしまう。


「まずは、先生のハンドベルの出し物です。皆も人形と一緒に歌おうね」


 サンタクロースの言葉で会が始まった。「赤鼻のトナカイ」の曲に合わせて、うさぎとニワトリさんの人形劇を見せてくれます。


 お友達たちは目を輝かせながら、「まっかなお鼻のトナカイさんは……♪」と歌ってゆく。わたしもうさちゃんを抱きしめて、口を動かしている。それを見て、両親も笑ってくれたのが分かる。

 

 次は、わたしのクラスとなるそら組の出番だった。

 タイトルは「あわてんぼうのサンタクロース」


 けれども、みんなが鈴を鳴らして演奏するのをひとり眺めるしかない。置いてけぼりの気持ちとなってしまう。遊び仲間たちは、上手にメロディーに合わせて歌ってもいる。


 仕方がないよね。

 ずっと休んでいたのだから。

 でも、歌姫になりたかった。


 練習してこなかったのを思い出して、目には涙が浮かんでくる。一緒にやりたかった。胸が苦しくなってゆく。でも、声をだして泣きはしない。わたしは強い子だ。


 最後は、先生たちがブラックシアターとして、「うさちゃんの星に願いて」を見せてくれた。小うさぎたちが星にお願いごとをするお話となる。お友だちから拍手が送られる。わたしにも素敵なプレゼントだったと思います。ところが、思わず口にしてしまう。


「頑張ればおうちに帰れるんだ。ぴょんぴょんとね」


 クリスマスパーティーでとても楽しい時間を過ごせました。

みんなと一緒に歌ったり、ゲームをしたり、プレゼントをもらったりした。楽しかったです。早く元気になって、お仲間に戻ってきたい。わたしの進む道にも未来がほほ笑んでくれるのなら……。



 最後にきらきら輝くツリーに並んで、お友達や先生と記念撮影をする。カメラの前でポーズを決めます。この写真は宝物として、忘れないように心に刻んでいました。


☘☘ おしまい ☘☘


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うさちゃんとの夢 神崎 小太郎 @yoshi1449

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