第45話 危機一髪


 通話ボタンを押すと、雑音の中から景介けいすけの声が聞こえた。


「ああ、やっと繋がった! 深月みつきちゃん? どこにいるの?」

「闇の中。前にアマミを探したのと同じ所だと思う……景介さん、龍人りゅうとは憑依されてる。取り憑いてるのはたぶんこの町の守り神だよ。守矢神社で祀ってあげてくれないかな?」

「やっぱり……だったんだ。わかった、うち……しっかり祀るよ。それより深月……あきらめちゃダメ……わかってるよね?」


 途切れ途切れの景介の声は必死だ。


「うん、大丈夫。何とか出口を探してみるから」

「こっ……も探すから」


 雑音がだんだん大きくなって、景介の声が聞き取りにくい。


「これから裏……路」


 ブチッと音がして、通話が切れた。

 気がつくと、闇の中に灰色の人影がいくつか浮かんでいた。


『人間の匂いだ……生きてる魂の匂いがする』

『ほぉぉぉぉ! 喰いちぎりたい!』


 声にならない声が、頭に直接響いてくる。

 怖くなって一歩下がると、近寄って来た灰色の人影が合体してひとつの塊になり、グニャグニャと蠢きながら近づいてくる。

 深月が駆け出すと、灰色の塊はますます大きくなりながら、津波のように深月を飲み込もうと接近してくる。


「来るなっ!」


 叫んだ瞬間、コンクリートの壁のようなものに背中がぶつかった。


(行き止まり……)


 前にも同じような事があった。あの時はどうやって逃げ出したのかと記憶を探っても、何も思い出せない。

 灰色の大津波が目の前まで迫ってきた時、アマミの声が聞こえた気がした。


「……つき、深月!」


 腕をつかまれて、ものすごい力で引っ張られた。

 ついさっきまで深月がいた場所に、灰色の化け物が殺到している。

 深月は腕をつかまれたまま闇の中を走った。自分の足で走るよりも早くて空中を滑っているようだ。自分の手も、その先を走る人の姿も見えない。でも、つかまれた腕から伝わって来る熱だけはしっかりと感じていた。


「アマミ?」

「しゃべるな、走れ!」

「どうしてここにいるの?」

「だから、しゃべるな! 走れ、闇に喰われたいのか?」

「やだよ!」


 体に力が湧いて来た。二人なら、この闇だって蹴散らして行ける。

 走って走って、闇を突っ切った先にはまた夕闇の世界があった。いつか見たボールを蹴る子供たちのいる夕暮れの風景だった。


「とりあえず、助かったな」


 立ち止まって、アマミがふり返る。

 久しぶりにアマミの顔を見て、深月もホッと息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る