第44話 賭け


「──もしかして、アマミくん?」


 裏通りへ続く細道で、ふいに声をかけられた。

 振り返ると、景介けいすけが立っていた。


「あなたは、確か神社の?」

「守矢景介です。きみも、深月みつきちゃんを探してる?」

「って言うと、あなたも?」

「実は、深月ちゃんのお父さんが神社に来て、無理やり連れて行こうとしたんだ。それで」

「――家を飛び出した?」


 アマミの問いかけに、景介は困ったような顔でうなずいた。


「きみは何で深月ちゃんを?」

「えっと、駅前ですれ違った気がして……。裏通りに行ったんじゃないかって思ったら、なんか気になって……」


 アマミは頭を掻いた。口に出してみると、あまりにも言い訳じみていて恥ずかしかったが、景介は気にも留めていなかった。


「良かった。僕一人じゃ探せないんじゃないかって思っていたんだ。深月ちゃんに、龍人が危害を加えないとも限らないからね」

「ですよね。とりあえず、裏通りを探してみます?」

「そうしよう」



 〇     〇



「──どんなに手を差し伸べても、誰も助からない。ここはぼくの記憶の中だからね」


 ごうごうと燃える町。立ち尽くす深月の隣には龍人りゅうとが立っていた。人間嫌いのはずなのに、炎を見つめる彼はとても悲しそうだ。

 たくさんの人間に闇を植え付けて、闇に墜ちていく様子を楽しんでいた龍人。安田の話から想像していた人物像と今の龍人はあまりにもかけ離れている。


(まさか……憑依されてる?)


「――もしかして、あなたは守り神だったの? みんなを守れなかったから、守り神でいることをやめたの?」


「そうじゃない。人間がバカだからだよ。たくさんの死の上に今のこの町があるのに、何もかも忘れて同じ過ちを繰り返す。そんなだから、さまよう魂が寄り集まって、闇が町を覆いつくしても気がつかない。自分のことしか考えてないからね」


 ズキンと、胸の奥深くをえぐられた気がした。

 深月自身も、自分のことしか考えないで生きてきた。この町の過去も、真剣に考えた事すらなかった。

 ごうごうと燃え盛る炎の中で、町も人も焼け焦げて炭化してゆく。

 誰の記憶だろうと、深月が見ているのはこの町の過去そのものだ。


「確かに人間はバカだけど……だからって、あなたが人間を困らせてどうするの? 祀ってくれないって拗ねてるなら、景介さんに頼んでもう一度祀ってあげる。ここに溜まった闇も、あたしと景介さんで必ず浄化してあげる。だから、その人から離れなよ!」

「え~! この人間、霊力が高くて居心地が良いんだけど」


 説得しようとする深月を嘲笑うように、龍人はクスッと笑った。


「まぁいいや。それじゃ、ぼくと賭けをしない? きみがここから出られたら、大人しく祀られてあげる。でも出られなかったら、きみはここで朽ち果てる。ぼくはこの人間のままだ」


 深月はゴクリと唾を飲み込んだ。

 この闇の世界から元の世界へ帰る方法を深月は知らない。前回は幽霊おじさんの力で外へ出られたのだ。


「どうする? やるの、やらないの?」

「やるよ!」


 深月がそう言った途端、龍人が邪悪な笑みを浮かべた。


「ぼくの記憶がきみに害を成すことはないけど、この空間に巣食う闇は、きっときみを喰らいたがるだろうね。まぁ、がんばって」


 恐ろしい言葉だけを残して龍人が消えた。

 いつの間にか町は消え、辺りは一面の闇に変わっていた。

 前後左右すらわからない、ねっとりとした意志のある闇。いつ襲ってくるかもわからない悪霊の塊を前に、怯んだ瞬間。


 プルルルル


 ジーンズのポケットでスマホが鳴った。

 取り出すと、画面には景介の名が光っていた。


「ここって……圏外じゃないんだ!」


 思わず笑みがこぼれた。


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