第42話 見知らぬ父親
「
ある日の夕方。
深月が玄関へ向かうと、言い争う声が聞こえてきた。ふくちゃんと、もう一人は男の声だ。
「娘がお世話になったことは感謝しています。私も、これ以上、娘をあの家には置いておけないと思っていたところでした。連れて帰ります」
「ちょっと待ってくださいよ。失礼だけど、深月ちゃんはあなたのことを覚えてないんだよ。いきなり会いに来て連れて帰るだなんて……」
「それでも深月は私の娘です。これ以上、中学生の娘を一人にしておく訳にはいかんのです!」
あと一歩で玄関という廊下の端で、深月の足は止まってしまった。
玄関土間に立つ男の顔を、深月は知らなかった。
家に母の写真はあったが父のものはなかった。母が亡くなり、深月が母方の祖母に引き取られた経緯も幼すぎて覚えていない。そうしなければならない理由があったのだろうと漠然と思っていただけだ。
「あ、深月ちゃん……」
「深月……か?」
見知らぬ男が深月の名を呼ぶ。
「あなたがお父さん? おばあちゃんのお葬式にも来なかったのに、今頃何しに来たの?」
言葉を探して沈黙する父の顔を、深月はじっと見つめた。
「あたしは、お婆ちゃんの家を離れるつもりはないわ。今は守矢さんのお世話になってるけど、あの家とおばあちゃんが残してくれたお金で生きていけるから大丈夫。あたし、ようやく友達が出来たの。やっと楽しく学校にいけるようになってきたの。邪魔しないで!」
「言いたいことはそれだけか? なら、荷物をまとめなさい」
お父さんは無表情のままそう言った。
「あたしはどこへも行かない。絶対に行かない!」
「仕方ない。荷物はいいから来なさい」
いきなり腕をつかまれて、玄関のほうまで引きずられた。
「嫌だったら!」
ふくちゃんも景介も、どうしたら良いのかわからず困っているようだった。いくら彼らが遠い親戚でも、実の父親が相手では難しいのだろう。
このままでは無理やり連れて行かれてしまう。怖くなって深月は暴れた。
「あたしはどこへも行かないから!」
父の手を振り払うと、深月は玄関から飛び出した。
闇雲に駆け回り、気がついたら駅前のコンビニまで来ていた。
たぶん、ここまでは来ないだろう。
ホッとすると、疲れた体がずっしりと重かった。
駅前通りは夜になっても人通りが絶えない。夏休みのせいか、コンビニ前にたむろする学生もたくさんいる。
(みんな、楽しそうだな)
深月はコンビニの窓から行きかう人たちの姿を眺めた。前は一人でいることが普通で何とも思わなかったのに、今は淋しくて仕方がない。
(どうしたら良いんだろう……)
アマミと知り合ってから、深月の生活は少しずつ変わった。友達と呼べる人もできた。そのせいで、一人でいることが怖くなったのだろうか。
(ちがう。きっとお父さんのせいだ)
深月が小さく頭を振った時、ポンと肩を叩かれた。
「やぁ、深月ちゃん。今日は一人なの?」
聞き覚えのある低い声にハッと顔を上げると、爽やかな笑みを浮かべる
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます