第6話 歩道橋の怪異


 何の収穫もないまま、一週間が過ぎようとしていた。

 深月とアマミは、最初に出会った駅前のコンビニのイートインで休憩していた。


「アマミはお腹すいたり、のど渇いたりしないの?」

『しないよ。つーか、心は乾くけどね』


 深月がイートインで飲み食いしている間、アマミはぼーっとしながら窓の外を見ている。

 アマミが死んでいないとわかったのは良いけれど、体が生きてるうちに戻らなきゃいけないと思うと、焦りで心が苦しくなる。

 もちろん、アマミの方が何倍も辛いに違いないけれど。


『あれ? あいつ……』


 アマミがいきなり立ち上がった。視線の先にいるのは、制服姿の男子高校生だ。


『追いかけるぞ、深月!』

「あっ、うん!」


 深月は慌ててアマミを追いかけた。

 夕方の駅前を、人をかき分けながら走る。

 何度もアマミの後ろ姿を見失いそうになりながら追いつくと、そこは裏通りにあるゲームセンターの前だった。


「さっきのヤツ、ここに入ったの?」

『ああ。ここから先は俺が行くから、おまえは帰れ』

「えっ、なんで?」

『こんな時間に、おまえをゲーセンに入れる訳にはいかないよ。しかも制服だろ? 学校にバレたらやばいだろ?』

「まあ……」

『送って行けないけど、気をつけて帰れよ』

「わかった。アマミも……気をつけてね」



 〇     〇



 翌日、アマミは姿を現さなかった。

 ゲームセンター前で素直に別れてしまったことを、深月は深く後悔した。


 昨日あれから、何かあったのだろうか。考えれば考えるほど、不安になって来る。

 幽霊だからケガをするはずないし、もしかしたら自分の体に帰れたのかも知れない。そう考えても、胸の奥にくすぶった不安は消えてくれない。


 深月は制服姿のままアマミを探した。

 ゲームセンターはもちろん、駅前やコンビニ前、大通りをへとへとになるまで歩き回ったけれどアマミは見つからなかった。


「あいつ、どこに行ったんだよ」


 息を切らせて立ち止まったのは、大通り沿いの可愛いカフェの前だった。

 歩道側に目を向けると、自転車事故の立て看板が目に入る。

 深月は歩道の端まで歩いて行くと、車道に目を向けた。片側二車線の道路には、たくさんの車が走っている。


 ふと、ここに立っていたメガネ男子の姿を思い出した。

 あの時、あの人は何を見ていたのだろう。そう思いながら辺りを見回していると、歩道橋の上に人だかりが見えた。


「何だろう?」


 歩道橋の中ほどに、不自然なくらいたくさんの人がいる。誰かを囲んでいるみたいだ。


「あれって……」


 嫌な感じがして、深月は走り出した。疲れた足を必死に動かして歩道橋の階段を駆け上ると、人だかりがはっきりと見えた。

 誰かに覆いかぶさるような人の山。遠くから見た時は人間だと思ったけれど、ぜんぶ亡者だ。


 歩道橋の上から突き落とそうとしているヤツ。下から引きずり降ろそうとしているヤツ。大勢で寄ってたかって、ひとりの人間を向う側へ連れて行こうとしている。


「ダメだよ! 早まるなっ!」


 深月は亡者たちを蹴散らして、真ん中にいた人にタックルした。その勢いのまま、その人を下敷きにして倒れ込む。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」


 女の子の声と、駆け寄って来る足音が聞こえた。


「えっ……篠田さん?」


 深月が頭を押さえて起き上がると、同じクラスの夕夏が立っていた。そして、深月の下にはあの時のメガネ男子が倒れていた。

  

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