第5話 ひとつの手がかり


「ねぇねぇ、駅前に可愛いカフェができたの知ってる?」

「知ってる! それって大通りのでしょ? 駅の反対側の」

「うん、そうそう。可愛いよね、パンケーキがめっちゃ美味しいんだって!」


 カラフル熱帯魚女子たちの会話は、可愛いものや美味しいもの、それからカッコイイ芸能人の話がほとんどだ。特に学食のテーブルでは、この手の話ばかりが聞こえてくる。


「この前さぁ、そのお店の近くで、刑事さんに聞き込みされちゃった!」

「ええっ? 可奈かなが? 何の聞き込みだったの? カッコよかった?」

「ぜーんぜん! 禿げたおじさんでまじウケたよ。事故の目撃者を探してるんだって」


 深月は何気なく、少し離れた席で会話をしている女子たちの方へ顔を向けた。

 話していたのは同じクラスの子たちだった。


「ねえ、それって何の事故?」


 深月は思わず、女子たちに話しかけた。


「うわぁ、能面に話しかけられちゃったよ! まじウケる!」

「やめなよ可奈」


 綾乃あやのが慌てて可奈を止める。


「えー、でもさぁ、篠田さんっていつも無表情じゃん。今まで話したことないけどさぁ、授業中に先生が面白いこと言っても、一度も笑った事ないんだよ」

「いいから可奈、事故のこと教えてあげなよ」


 綾乃が可奈の背中をパシパシと叩く。


「わーったって。でも篠田さんのせいでもあるんだよぉ。いつも話しかけるなバリア半端ないじゃん!」


 彼女たちの目に、深月はそんな風に見えているらしい。


「ほらぁ、十日くらい前に事故あったの知ってる? 駅前通りでバイクと自転車が接触したやつ」

「自転車の事故? その人、どうなったの?」

「そこまでは聞かなかったなぁ。篠田さん、もしかして何か目撃したの?」

「ううん。そうじゃないけど」


 深月は答えに困った。


「……あのね、自転車の人は入院してるみたいだよ」


 遠慮がちにつぶやいたのは、おとなしい感じの夕夏ゆうかだった。


「夕夏、何か知ってるの?」

「知ってるって言うか、お兄ちゃんの学校の生徒みたい……だから」

「そうなんだ。夕夏のお兄ちゃんって西高だっけ?」

「うっ……うん」


 夕夏の戸惑ったような表情が気になったけれど、深月は彼女たちにお礼を言って学食を後にした。

 アマミと関係があるかはわからないが、帰りに駅前通りの事故現場へ行ってみることにした。



 〇     〇



 アマミと一緒に駅前通りへ行くと、可奈たちが言っていたカフェの近くに、事故の目撃者を募る白い立て看板があった。


『事故があったのって、GWゴールデンウイーク前の金曜日か……』


 深月の隣で、アマミはじっと立て看板に見入っている。


(少しでいいから、アマミが記憶を取り戻せたらいいのに)


 そう思いながら何気なく辺りを見回すと、少し離れた場所に男子高校生が立っていた。メガネをかけたその人は、ぼーっとしたように車道を見つめている。


「ねえアマミ。あの人、見おぼえない?」


 深月は小声で聞いてみた。

 アマミは車道を見つめるメガネ男子のそばまで行き、顔を近づけてじっくりと観察したけれど見おぼえは無いようだ。


『わかんないなぁ』

「そっか、アマミとは無関係かもね」


 そんなに簡単にわかれば苦労はしない。

 自転車の事故は、確かに最近の出来事だったけれど、アマミがヒモ付き幽霊になったのが事故とは限らない。病気の可能性だってある。

 深月はもう一度だけメガネ男子の方へ振り返ってから、アマミの後について歩き出した。

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