第4話 道路おじさん


 深月みつきとアマミは、手がかりを探すために町へ出ることにした。

 人目があるので、話をするときは深月がスマホで電話しているフリをする。


「ねえ、アマミはさ、あたしと会う前はどこにいたの?」

『あのへん歩いてたよ。気がついた時には、もうあのコンビニの近くにいたんだ』

「ふーん。それじゃ、ホントに死んだばっかりなのかもね。あの通り沿いで事故とかあったかな?」

『知らねぇ。記憶ないもん』


 やっぱり自分が死んだことを受け入れたくないのか、アマミはだんだん不機嫌になってきて、深月の前をスタスタ歩いて行く。

 そう。アマミは幽霊のくせに、人と同じように歩く。

 これもやはり、死んだばかりだからなのかも知れない。普段見かける幽霊は、もっとフワッと移動している。


「気になる人とか場所を見つけたら、すぐに教えてね」

『ああ』


 アマミは、パーカーのポケットに手をつっこんだ格好のまま歩いてゆく。

 早足で歩くアマミの足が止まったのは、やっぱりコンビニの前だった。


「アマミって、このコンビニによく来てたんじゃない?」

『そうかもな。部活の帰りとかに、寄ってたのかも知れない』

「アマミの友達も来るんじゃない? そしたら見覚えある人もいるかもよ」

『うん。あっ……』


 アマミの視線の先に、制服姿の男子生徒の集団がいた。重そうなスポーツバッグを肩にかけ、楽しそうに話しながらコンビニに入って行こうとしている。


「知ってる人?」

『いや、違う』


 アマミは首を横にふる。


『けど、あれ、たぶんサッカー部だ。俺……いいなって思ったんだ。うらやましいなって。もしかしたら俺、サッカー部にいたことあるのかも知れない』


 そう言ったアマミは笑っていたけれど、どこか淋しそうだった。



 〇     〇



 深月たちは次の日も、その次の日も町をさまよい歩いた。

 毎日、学校の授業が終わる頃アマミがやって来て、夕方まで町を歩く。

 暗くなると危ないからって、アマミはいつも深月を家まで送ってくれる。手がかりがひとつも見つからなくても、夜まで探そうとはしなかった。

 でも、深月を家まで送ったあと、アマミがどこで何をしているのか深月は知らない。


 一日が終わるごとに、深月のため息は増えていった。

 アマミの顔を見るのが辛かった。

 初めて会った日、人間と同じように見えていたアマミが、今は何となく透き通っているように見える。

 いつかアマミが消えてしまうんじゃないかと思うと、何故だかすごく怖くなった。



『なぁ深月。今日はちょっと行きたい所があるんだ。一緒に来てくれよ』


 いつもよりニコニコしながら、アマミが歩いてゆく。


「何か見つけたの?」

『うん。手がかりとかじゃないんだけど、ちょっと話してみたい人がいるんだ。まあ、人っていうか幽霊だけどさ』

「幽霊……」


 アマミが深月を連れて行ったのは、いつも歩き回っている場所からワンブロック離れた、大通り沿いの歩道だった。


『ほら、あの人見える? 歩道の植込みに座ってるおじさん』


 歩道の中にある植込みを囲んだブロックの上に、白髪のおじいさんが座っている。


「うん、見えるよ」

『あの人さ、ずっとあの場所に座ってるんだ。幽霊だよね?』

「うん」


 深月はうなずいて、アマミを見上げた。


『俺が話すから、深月は隣で聞いててよ』

「わかった」


 深月たちは、ブロックに腰かけたままうつむいているおじいさんに近づいて行った。

 アマミがおじいさんの右側に座ったので、深月はおじいさんの左側に座ってスマホを見ているフリをした。


『こんにちは』

 アマミが話しかけると、おじいさん幽霊は白髪頭を上げた。


『おじさんは、ずっとここにいるんですか?』

『ああ、わしはここにいる。ずーっとだ。おまえさんは、どこから来たんだね?』

『気がついたらこの辺を歩いていたんです。俺、何も覚えてなくて……おじさん、何か知りませんか?』


 アマミがそう言うと、おじいさん幽霊はアマミをじーっと見つめた。


『おまえさんが何処の誰かなんて、わしは知らないさ。だが見たところ、おまえさんはヒモ付きだ。急げばまだ帰れるんじゃないかな?』

『ヒモ付き?』


 アマミは首をかしげる。


『ほら、よく見てみろ。おまえさんの体から、光るヒモが伸びてるだろ?』


 おじいさんの言葉を聞いて、深月がアマミの方を見ようとしたとき、ちょうど振り向いたおじいさんと目が合った。

 おじいさんは深月を見て微笑むと、こう言った。


『お嬢ちゃんも見えるなら、よっく見てやんな。あれがあの子の命綱だ』


 深月は今まで、アマミの体にヒモがついてるなんて気がつかなかった。どこにそんなものがあるのかと、じっと見つめていると、うっすらと光る筋が見えて来た。

 ヒモと言うより細い釣り糸みたいな、見えるか見えないかという光の筋が、ふんわりと上空へ伸びている。


『それって、俺が……まだ生きてるってこと?』


 戸惑っているアマミの顔が、だんだんと輝いてくる。


『まだ生きている。急げば間に合うかもしれん』

『どうしたら戻れますか? 俺、どこへ行ったらいいんですか?』

『そこまではわからんよ。おまえさんを知っている人を探して、体に戻るしかない』

『わかりました。俺、絶対に探し出します! また相談に乗ってくださいね!』


 アマミがやる気満々に立ち上がったので、深月もブロックから立ち上がった。


『気ぃつけてな。わしみたいな無害な幽霊ばかりじゃない。ここいらにはタチの悪い奴もいるからな』


 おじいさん幽霊の忠告に感謝して、深月は少しだけ頭を下げた。

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