第3話 アマミ


『おまえんち、誰もいないの? お母さんは?』


 家の中を一通り見てから、幽霊がそう訊いてきた。


「お母さんは、あたしが小さい頃に亡くなった。お父さんは遠くにいる」

『えっ、じゃあ、おまえ誰と住んでるの? 兄弟は?』

「この間までは、おばあちゃんと暮らしてた。おばあちゃんが亡くなってからは、お手伝いの梅さんと二人で暮らしてる。今日はたまたまいないけどね」

『なんでお父さんと一緒に住まないの?』

「お父さんには会ったことないし、再婚してるの。それに、あたしが出て行ったら、おばあちゃんの家を処分されちゃうし」


 深月みつきが答えると、幽霊はハッとしたような顔をした。


『あれか? 継母と上手くいってないってヤツか?』

「ちがうよ……そもそも会ったことないから」


 家族の話なんて誰にもしたことが無いのに、幽霊が相手だとするする言葉が出て来る。


『そっか。訳ありなんだな』

「あなたはきっと、普通の家庭なんだろうね」

『そうかもなー』


 アハハと楽しそうに笑う幽霊を見ていると、不思議といろんなことを笑い飛ばせそうな気持ちになってくる。


『おまえの名前、何て言うの?』

「あたしは、深月。篠田しのだ深月っていうの」

『深月か、いい名前だな』

「あなたは、名前も覚えてないんだっけ?」

『まあな。だけど、いつまでもアナタって呼ばれるのも嫌だから、なんか名前考えてくれないか? 呼びやすいヤツでいいからさ』


 幽霊は深月に丸投げして、ニコニコ答えを待っている。


「呼びやすいって……ポチとか?」

『それ犬だし』

「タマとか?」

『それは猫だろ?』

「……幽霊に名前つけるの難しいよ」


 深月はプクッと頬を膨らませた。


『難しくないだろ。ほら、もし深月にお兄ちゃんがいたら、こんな名前がいいとか、ないの?』

「は?」


 そう言われても何も浮かんでこない。


『じゃあさ、深月の好きな物ってなに?』

「好きな物? 何だろ……水族館とか魚かな? 魚クンにする?」

『いやいや、それ違うでしょ。俺に似合うカッコイイ魚とかいないの?』

「水族館は好きだけど、魚に詳しいわけじゃないもん」


 深月はそう言ってから、幽霊青年をじっと見つめた。

 明るくて、お人好しで、お節介な幽霊。そんな魚いるわけがない。そう思ったとき、ふと、一生懸命な魚を思い出した。


「アマミホシゾラフグ!」

『ええっ? なにそれ、フグ?』


 幽霊男は不満そうに眉をよせる。


「うん。海底にミステリーサークルみたいな、きれいな模様を描く魚。その模様でオスがメスを引き寄せるんだって」

『あーそれ、なんか動画で見た事あるかも!』

「うん。せっせと模様を描くところが、あんたのお節介なところに似てる気がする。だから、あんたのことはアマミって呼ぶよ」

『アマミって……それ略し過ぎ。魚要素ないだろ? まあいいけどさ』


 幽霊は目を眇めたまま、渋々うなずいた。


『俺がそのアマミホシゾラフグなら、おまえはさしずめタツノオトシゴって感じじゃね?』

「なんで?」

『タツノオトシゴって、いつもひとりでフヨフヨ漂ってるじゃん。それにあのトゲトゲ。全身に鎧着てるみたいで、おまえに似てるよ』

「どうせあたしはトゲトゲしてるよ」


 深月がプンプン怒っても、アマミは嬉しそうに笑っていた。

  

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