第7話 ひとりぼっち


「――どうして死のうとしてたの?」


 近くの公園に場所を移して、深月みつきはメガネ男子に問いかけてた。

 彼は魂が抜けてしまったようにぼんやりして、何も語ろうとはなしなかった。


「ごめんね篠田さん。お兄ちゃんこのところ塞ぎこんでて……」


 夕夏ゆうかの話では、家族みんなが彼のことを心配しているのに、何も話してくれないらしい。


「もしかして、大通りの事故と関係があるの? この前、歩道橋近くの事故現場に立ってたでしょ?」

「えっ……それほんと? 事故にあった人が、お兄ちゃんのクラスの生徒だっていうのは聞いてたけど」


 夕夏は驚いたように、兄と深月を見比べている。


「言いたくない事は言わなくていいけど、事故にあった人……もしかしたら知ってる人かも知れないの。名前も知らない人だけど、もし入院してる病院を知ってたら教えてくれない?」


 深月がそう言うと、メガネ男子はようやく少しだけ顔を上げた。


「明日の四時に、駅前で待ってて。ぼくも……お見舞いに行くから」


 ひどく疲れたような声だった。




 メガネ男子と夕夏が連れ立って帰って行く。

 その後ろ姿を深月はぼんやりと見送った。

 二人を見たせいか、深月は隣にアマミがいないことが寂しかった。


(今日は梅さん、いないんだよな。夕飯、コンビニでいっかな?)


 住み込みで働く梅さんは、田舎に住んでるお母さんが入院したとかで、出かけてしまった。

 ひとりぼっちの家に帰る気になれず、深月はコンビニのイートインで夕飯を済ませ、もう一度アマミを探すことにした。


 ゲームセンターへ向かう途中で、歩道の先にぽつんと座るおじいさんに気がついて、深月は道路おじさんの前まで歩いて行った。


「こんばんは。あたしを覚えてますか?」


 深月が声をかけると、道路おじさんは少しだけ顔を上げた。


『ああ嬢ちゃんか。覚えてるよ。今日は、あのヒモ付き兄ちゃんはいないのかい?』

「うん。あの人を探してるの。今日は見かけてない?」

『見かけてないな。まだ体には戻れていないのかい?』

「たぶん。今日は一度も見てないの。体に戻れたならいいんだけど……」

『心配かい?』

「……うん」


 深月はコクリとうなずいた。

 最初はただの迷惑な幽霊だったのに、いつの間にか大切な存在になっていた。


「おじいさん、この前言ってたじゃない。この町には悪い奴らもいるって。それってどんなの? どこにいるの?」


『ああ。通りの向こうに、古い雑居ビルが集まってる所があるだろ? あのへんは危ないよ。妄執に捕らわれた魂ばかりが寄り集まって、誰が誰だかわからないくらい同化して悪霊になりかけてる。あそこへ行ってしまったら、あの兄ちゃんも取り込まれてしまうだろう。そしたらもう助けるのは無理だ。残念だがあきらめるしかない』


 おじいさんが指さした場所を見て、深月はゾッとした。大通りの向こうに見える雑多なビル群。あそこにゲームセンターがある。


「おじいさん、ありがと!」


 ちょうど青になった横断歩道を走って渡り、深月は細い路地から裏通りへ向かった。

 悪霊のたまり場なんて、はっきり言ってごめんだ。行きたくなんかない。でも、もしもアマミが捕らわれてるなら助けに行かなきゃ。


 昼間は殺風景な通りも、夜になるとネオンがキラキラして、酔っぱらった大人たちがたくさん歩いていた。


 さすがにゲームセンターの中には入れず、裏通りや細い路地を探したけど、アマミの姿は見つからない。

 それでも諦めきれずに探していたら、人通りもネオンも途切れた暗い路地の手前に、『この先行き止まり』と書かれた看板を見つけた。


 その暗い路地を見た瞬間、背筋がゾクッと震えた。

 路地の奥は暗くて何も見えない。まるで夜とは別種の闇が、路地全体を覆っているようだった。


「アマミ……いるの? アマミ?」


 呼びかけても、答えはない。

 そっと一歩だけ路地に踏み込んだが、何も見えない。

 さらにもう一歩奥へ踏み込んだ時、グラリと天地がひっくり返った。

  

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