二巻発売記念SS
《発売記念SS》例の5日間 side関玿
7月25日にメディアワークス文庫様から、本書籍②巻が発売になります。
記念としまして、②巻の物語が始まるまでの数日の関玿と紅林についてSSを、今日からいくつかしたためます。
無自覚ヤンデレ皇帝と面倒くさがり才女の心と頭の中をお楽しみください。
1巻SS《関玿の初恋》の後くらい……
※下ネタ注意
※書籍はごく真面目な内容です。
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『五日後、必ず抱くから……待っていてくれ』
そんなことを言ってしまったのが昨日。
一日目にして、
「なんであんなこと言ってしまったのか」
関玿は、腰掛けた
「そんなに後悔なさるのなら、どうして格好なんてつけたんです」
関玿の溜め息に、宰相の
「愛する女人には格好良く思われたいだろう」
「今日のお話を聞く限りもう充分手遅れだと……あ! もしかしてご自身の身体に自信がないとか」
「はぁ!?」
「大丈夫ですよ。陛下の玉体は――」
「もういい、馬鹿永季。報告はさっきので終わりだな。さっさと出て行け」
見当違いのことを言いはじめた安永季を、関玿は犬でも追い払うかのようにシッシッと手を払って追い出した。
そしてひとりになると、また関玿は疲れの濃い溜め息を吐く。
自分はこんなに我慢ができない人間だっただろうか。
正直、すぐにでも彼女を抱きたかった。だが、いざ貴妃姿の紅林を見たら、すべてが吹っ飛んでしまったのだ。彼女に格好悪いところを見せたくないという一心で、口づけだけで耐えたが、本当は頭の中は混乱しっぱなしだった。
歓喜と興奮と、初めて恋した人と閨を共にできてしまったら、自分はどうなってしまうのかという微かな戸惑い。
多分、昨日初夜を迎えていたら、今頃言った通り絶対に紅林を抱き潰していた。
だから自分の選択は間違っていない。……はずなのだが。
「はぁ……情けない」
皇帝としての格好もつけたい。
年上の男として、余裕ある態度で触れてやりたい。
しかし同時に、ひとりの男として欲望のままに彼女の肌を貪りつくしたいという強烈な欲望もあるのだ。
深紅の長袍から覗く、華奢な手首。
二本纏めても自分の手なら片手で拘束できてしまうだろう。たとえ暴れられても苦もなく押さえ込める。
身体も細いが、女人として出るべきところはしっかりと出ている。いつもゆったりとした襦裙を着ているせいで身体の線は見えないが、何度も抱き寄せてきた経験から、胸の柔らかさも、腰の細さも、尻の丸みも全部分かっている。
彼女の柔らかいあの胸を掴んだら、きっと歪な形にゆがむのだろう。その時、彼女はどんな声をあげ、どんな顔をするのか。
嬌声を上げて嫌がるのか。
嫌がったところでやめはしないが。むしろ、体中に歯形をつけて、誰のものか目で分からせてやるのも良い。
甘いさえずりでもっとと請うのか。
そんなことをされたら、彼女の腹の中を自分のもので何度も満たしてしまうに違いない。あふれても構わず奥に叩きつけてしまうだろう。
それとも熟れた吐息を漏らしながら、恥ずかしさに震えるのか。
羞恥に染まる彼女の顔はきっと美しい。小さくなった身体を、蝶の羽が触れるように丁寧に優しく開かせるのは愉しいに違いない。そして、最後は自分からねだるように仕向けるのも一興か。
誰も寄せ付けないとばかりにいつも隙を見せない凜とした彼女が、一糸まとわぬ姿で、自分の下で乱れている。
どこに歯を立てれば彼女は喜ぶのか、どこを擦ってやれば鳴くのか……。
そんな姿を思い描いたら、いつのまにか自分の下腹部に重い熱が集まっていることに気付いた。
「……未経験の
頭の中だけでこれなのだ。
本物の紅林を目の前にした時、理性を保てるはずがない。
「それに彼女は初めてなんだ。怖がらせるような真似は……」
ふと、「ん?」と疑問がわく。
「……初めて……だよな?」
元公女で後宮暮らしをしてきたと言っていたのだから、男と触れ合う機会などなかったはず。
「…………本当か?」
林王朝の後宮も、今と同じく宦官は採用していなかったはずだ。
つまり、男の衛兵と男の官吏が後宮内をうろついているということ。
「な――っ! なんという危険な後宮だ! 林王朝の皇帝は馬鹿だったのか。倒して正解だったわ!」
自分の後宮を棚上げして何を、と安永季が聞いていたら言っていただろう。
ついでに「その馬鹿の顔が見たければ、鏡を覗かれては?」くらい付け加えていたに違いない。
なんでも、宦官制度があった時代でも結局金ほしさに外部の男を手引きしたり、玩具を使っての宦官との密通を繰り返したりと、風紀が乱れに乱れまくり色々と問題が起きたため、それならば官吏に戻してしまおうとなったらしい。
後宮でしか生きることができない、男という性を奪われた者達は、欠けたものを補おうとして他の欲が強くなるという話だ。特に、皇帝の世話係という権力に近い場所にいたということも、欲の増長につながっていたのだろう。
それならば男性官吏に戻し、仕事として配属させ、定期的に人員配置を換えたほうが権力との癒着は防げるという結論の末という話だ。
「しかし、俺と紅林が出会えたのも、男の衛兵が見回りできたおかげだし……俺の後宮なんだ、紅林以外全員
ひとりの貴妃のために離宮を造り与えたという皇帝はいるが、ひとりの貴妃のために、後宮丸ごと空にしようと考えた皇帝は、おそらく関玿が初めてだろう。
元より、関玿は『冷帝』などと呼ばれてはいるが、本質は愛情深いのだ。
民への愛があったからこそ、苦しみに耐える者達のために剣をとって立ち上がり、負ければ死しかない、はるか強大な王朝に立ち向かったのだ。
皇帝になってからの五年、確かに女人へその愛が向けられることはなかった。すべて関王朝の民へとひたすらに向けられてきた。だから、これだけ早く国が立ち直ることができたのだ。
もし、その国ひとつを立ち直らせることができる愛が、たったひとりの女人に向けられたらどうなるか……。
それが薄々と関玿自身も分かっているから、五日という冷却期間を設けたのだ。
しかし、冷却期間とは言っても彼女を思い描くだけでこれだ。もう少し、期間を長く取るべきだったか。
「……ひとまず、落ち着かせるか」
腰の紐を緩め、グイと下衣をおろした時。
「すみません陛下、伝え忘れが。景淑妃からの手紙ですが――――あ」
部屋にやって来た安永季と目が合った。
驚きに目を丸くしていた安永季だったが、ひとつ頷くと、優しさのような同情のような、なんとも言えない生ぬるく気持ち悪い目を向けてきた。
「陛下……ご安心ください。陛下の陛下はちゃんと陛下ですから。自信を持ってください」
「――ッ出! て! 行! け!!!!!」
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