《感謝SS③》二世の契り

※五日後に絶対抱く宣言の三日後です

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赤薔宮にやって来るなり、関玿は「花を見に行こう」と言った。

花なら見に行かずとも、赤薔宮の中に先代貴妃である朱蘭があつらえた専用庭があるのだが、しかし、関玿は「もっと開放感がある場所で花が見たい」と、微妙に遠回しな言い方をして首を横に振る。しかも、朱姉妹についてくるなと二人きりをご所望だ。


そこまできて紅林は、彼がどこの花を求めているのか、ピンときた。

滅多に人が来ず、衛兵すら見回りに来ない、草花があるがままに咲き誇るあの場所だろう。二人にとっては思い出深い場所だ。

かつては母の墓に花を供えに通ったものだが、赤薔宮の庭園の中に許可する場所は移した。おかげで、あの場所へ行くこともない。


久々にあの場所を訪ねてもいいだろうと、紅林も二つ返事で了承し、二人はあの場所――北庭へと向かったのだったが……。




「駄目です、陛下!! さすがにそれは……!」

「俺が良いと言っているんだから、良いに決まっている」

「もう少し人目をきにしてください! ここは宮の外ですよ!?」


だから、こうして彼に対する言葉遣いも丁寧なものに変えているというのに。

どうして彼は、自分の努力をすぐに水泡に帰そうとするのか。


「宮の外だろうと中だろうと、俺が紅林を愛していることは、まったく変わらないんだが?」

「あ、あい……!? って、そ、そういう問題じゃありません!」


この間から一体彼はどうしてしまったのか。

これほどに直接的な愛をぶつけてくる者だったか。いや、確かに衛兵の時も、手は少々早いように思えたが。


「とにかく! これはいけません!!」

「……いけなくない」


紅林は顔を赤くしながら、必死に身をねじらせ関玿から離れようとする。

しかし、関玿も関玿でむくれた顔して、絶対に紅林を放そうとはしない。

そして、とうとう紅林の羞恥と堪忍袋の緒が限界に達した次の瞬間。


「――っお手々は繋げません!!!!」


通路の壁に反響して、紅林の心からの叫びが後宮中に響いた。

掃除をしていた宮女がなんだなんだと目を丸めてこちらを凝視してくるが、これはどうしても譲れないのだ。


「寵妃と手を繋いで何が悪いんだ……」

「良い悪いではなく、人目を考えてくださいと言っているんです!」


ここは宮の外。

それはつまり、数多の目があるということ。

宮女しかり、女官しかり、他の宮の侍女しかり、そして妃嬪しかり……。


――冗談じゃないわよ!? ただでさえ宮女から貴妃にされたことで、他の妃嬪達から面白くないって思われてるのに!


宮の中ならまだ良い。

だが、こんな公の場で露骨に『お気に入り』と示されては、この身に何が飛んでくるか分からない。

李徳妃からは李翠玉の槍が飛んできそうだし、宋賢妃からは怒声と罵声と暗殺者が飛んくるだろうし、景淑妃からは……本当に何が飛んでくるか分からない。


「陛下……陛下が思うより、女というのは恐ろしいものなんですよ」


他人の子は殺すものという思考が当然になり、女官や宮女の命は塵も同じ。自分に仕えてくれている侍女ですら、自分の罪を着せるための体の良い人形くらいにしか思わない。

そんな者達の巣窟なのだ、ここ後宮という場所は。


関玿は繋いでいた手と反対の手で、紅林の頬に触れた。


「そういったことについては、きっと紅林のほうが詳しいのだろうな。だが、ここはもうかつての林王朝の後宮とは違う。俺の後宮だ」


握られていた手を、さらに強く握られる。


「紅林の心配事は全て俺が晴らしてやる。危険からは身を挺して守ろう。俺は、これまでも、これからも、その先もずっと……たとえ妃が数多いようとも、紅林だけに愛を捧げると誓おう」


まるで誓いの口づけのように、握られた手の甲に触れるか触れないかくらいの熱が落とされた。

手の甲に口づけをしたまま上目遣いで紅林の様子を窺っていた関玿だが、フッと目元を微笑ませると紅林の手を解放する。


「だが、確かに余計な問題は減らしたほうが得策ではあるな」


行くか、と止めていた足を北庭へと向け、再び歩き始めた関玿の背中に、紅林が声を掛ける。


「どうして突然、北庭に行こうだなんて言われたんですか」


振り向かずに関玿は答える。


「あの綺麗な場所を、衛兵と宮女ではなく、夫と妻として見た場所にしたかったんだ」


紅林は小走りで先行く関玿の元へと駆けていき、そして、身体の横で揺れていた彼の小指だけをきゅっと握った。

驚きに関玿が瞠目して隣の紅林を見遣るが、紅林の顔は反対側へと逸らされていた。ただ、結い上げているせいで丸見えになっている耳は、紅林の羽織りと同じ色に染まっている。


「……こ、このくらいなら……袖に隠れて見えませんから……」


関玿は頬を色づけ、ふっと口元を緩めた。


「本当、毎日お前に魅了されてばかりだ」


二人は北庭の景色を、日が傾くまで肩を寄せ合って眺めていた。




――――――――――――

たくさんの方々にこの物語を読んでいただけとても嬉しかったです!

ありがとうございました。


あらためまして、書籍版『傾国悪女』のほうも、何卒よろしくお願いいたします。

特に表紙と帯裏が本当に綺麗で、ぜひお手にとって眺めていただければと思います!


11月連休明けから新連載【悪役令嬢の遺言状】の更新を始めたいと思います

ミステリーファンタジーとなります

また、皆様とお会いできますこと心から祈っております




……そして、これは単なる私の趣味といいますか好みでして、

よく漫画で「この漫画は全てお芝居で、キャラは俳優さん達が演じていました」みたいなIF舞台裏ストーリーがあるとおもうのですが……

あれが好きで、ちょっこれでもやってみたいと思いまして。


しかし、おそらく世界観が壊れるから嫌い!って方々がいらっしゃると思います。

キャラ像が崩れてしまう!と……

せっかく読んでいただいたのに、そのような思いはしてほしくないので

しれっと、サポーター限定記事でIFを上げようと思います。


有料ですし、払ってまで読んでほしいというのは傲慢だと思っております!

なので、これは目につかない場所で好き勝手する私の完全に自己満足です!!

ただ、一応同じ趣味の方がいらっしゃれば、一緒に楽しみましょうということで

ご連絡だけさせていただきました。


それでは皆様、ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。

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