一巻発売記念SS
《発売記念SS》関玿の初恋
本日、10月25日にメディアワークス文庫様より、本作書籍が発売されました!
ので、発売記念SSとして、終章直後の関玿の様子を書きました。紅林が思っているよりきっと関玿の愛は重くて純度が高いです
お楽しみいただければ幸いです
そして、本作書籍もお手にとっていただけますと、関玿の重い愛を続編で書くことが許され、もっと幸いです!
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前王朝の公主で、狐憑きと言われた伝説の傾国である末喜と同じ白髪を持ち、現王朝の貴妃――それが紅林の密かな肩書きである。
「さすがに色々と多過ぎだろう……」
隠さなければならないことも、気をつけなければならないことも。
白髪の女人が貴妃になったと、宮中ではまだ知らない者のほうが多い。後宮妃の顔を拝める機会などほぼないし、冊封の儀も行わなかったのだから当たり前だが。
今のところは、後宮内で少々ざわついている程度だが、おそらくそれもいつまでもつか。
きっと狐憑きが貴妃になったと知ったら、反対する者達も出て来るだろう。ここぞとばかしに足を引っ張りに来る者も。
安永季にも
『本当に大丈夫ですか!?』
と、ことあるごとに何度も確認された。
しかし、どんな困難が待ち受けようとも、絶対に彼女を貴妃にしたかった。
どうしても、彼女が逃げ出さないための枷がほしかったのだ。
ただの宮女だと、彼女は逃げてしまう。
才智溢れた彼女のことだ。面倒だと思ったら、後宮の法をかいくぐって無事に外に出る方法など、いくらでも思いつくに違いない。
だから、その前に結びつけておく必要があった。自分に。
自分でも随分と傲慢な欲だと呆れる。
今までどんな女人に対しても、ここまでの執着心など持たなかったというのに。
しかし、貴妃にしたことで、新たな問題が出てきたことに気付いた。
「……
元々、宮女の時でもハッと目を惹くところがあった彼女だ。
ただ適当に梳いただけの髪や、十把一絡げの宮女装束で髪色以外が目立たなかっただけで。
貴妃の衣装をまとい、しっかりと化粧をして飾り立てた姿を見たときは、息が止まるかと思った。
狐憑きなどとんでもない。まるで天女のような神々しさをまとっていて、気付いたら彼女の手を握ってしまっていたほどだ。
そのまま、天の国へと帰って行ってしまわないように……。
皇后不在の今、四夫人が代理として国事行為や儀式などを行うこともある。
つまり、人前に紅林が出ることもあるのだ。しかも四夫人の中で一番とされる『貴妃位』。きっと、誰よりも出番は多くなるのだろう。
「嫌だ……紅林は俺だけのものだ。俺にだけ笑ってほしい」
彼女に厳しい視線が飛ぶのも、彼女に好意が及ぶのも許せない。想像しただけで、奥歯がギリッと軋んだ。
「おやおや、随分と悩まれてますね」
そこへ、馴染みある男の声がかかる。
静かに部屋に入ってきたのは、反乱軍時代からの腹心であり、宰相でもある安永季だ。
「……永季」
「あれだけ、私や内侍省の意見を押し切って貴妃になさったんですから、そのくらいの苦労は覚悟なさいませんと」
「分かっている」
安永季は、むくれた関玿の顔を見て、ふっと笑みを漏らした。
「全然分かっているとは言えないお顔ですけどね」
「し、仕方ないだろう……紅林は可愛くて賢くて美しくて妖艶でそれで少しズルくて面倒くさがりででも泣き顔は――」
「呪文ですか。長すぎますよ」
「とにかく! 俺は紅林が……っ」
「貴妃様が?」
声を上げたかと思えば、突然言葉を切ってしまった関玿に、安永季は首を傾げる。
関玿は、じっと己の手を見つめていたかと思うと、その手でじわりと顔を覆った。
「……っ可愛くて仕方ないんだよ」
手の下でぼそりと呟かれた声に、安永季は肩をすくめるだけで返した。
どうせ手で顔を覆ってしまった彼には見えないのだし、結局ノロケの言葉を耳まで真っ赤にして言う姿に、なんと返せというのか。
恋に落ちた男につける薬などない。
「これで私の仕事もひとつ減ったようで、何よりです」
後宮に行けと口うるさく言わずとも、今後彼は自ら進んで後宮へと足を運ぶだろう。それこそ、毎日でも。
後宮を作るまで一年。
後宮に女人をいれるまで五年かかった。
夜伽まで十年――には、ならずに済みそうだ。
長年を共にしてきた友人が、初めての恋に戸惑う姿を安永季はあたたかな笑みでもってしばらく眺めていた。
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読んでくださり、ありがとうございます!
現在連載中の「ごめんあそばせ、殿方様!」が10月末で完結するので
よろしければコミカルな恋愛がお好きな方は
覗いていってもらえると幸いです
今後ともドキドキする物語を書いていきますので、
よろしくしてくださると嬉しく思います!
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