プロローグ 笠井凛

 横山圭は、私の世界を変えてくれた人だった。もう一年以上も前の事だけど、彼が私を救ってくれたのだ。持ち前の聡明さと、勇気で。でも普段の彼は、中学校の中で、とても臆病に生きているように見える。休憩時間は教室からすぐにいなくなり、授業中も息を殺している。まるで、溺れかけているようだ。

 私はその理由を知っている。彼は、自分の世界を強く持ちすぎているんだ。彼は人の心の機微に誰よりも敏感で、誰よりも優しい。人を傷つけたくなくて、自分を傷つけたくなくて、誰とも関わろうとしない。でも彼は、そのせいで孤独に溺れている。

 彼は人と繋がりたいのか、繋がりたくないのか。人と繋がる事が、彼にとって幸せなのか、不幸なのか。

 私はその答えを知っているつもりだ。彼は心の底では人と繋がる事を望んでいるし、それが彼の幸せになるはずだ。だって、彼が私にそれを教えてくれたから。私が彼に出会ったあの日、彼が私にそれを教えてくれた。あの、苦しそうな笑顔で。今にも溺れてしまいそうな笑顔で。

 だから私は、彼の隣にいようと思っている。彼と世界を繋げたいと思っている。でもそれはお節介で、圭は私の事を面倒な女だと思っているのかもしれない。

 圭は私の希望で、私はそれを失いたくない。でもそれは、私の勝手な思い込みかもしれない。

 

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