圭と凛

@kiichilaser

プロローグ 横山圭

「圭はさ、もっと堂々としてなよ」

 それは、彼女の口癖だった。学校から離れた、誰もいない河川敷、放課後。学校指定のカバンを置いて、僕らは水切りをしていた。空は厚い雲に覆われており、水切り日和とはいえない。

「僕は凛みたいには出来ないよ。君以外に、自分の事を知ってもらいたいとは思わない」

 こちらは僕の口癖だったが、本心はよく分からない。自分自身の事なのに、よく分からない。僕の小石は一回も弾むことなく、水底に沈んでいく。

「私は知ってるよ。君が、本当は凄い人だって事。だから皆にも、君の事を知ってもらいたいな」

 彼女が投げた石は、軽やかに弾んでいった。何の迷いも無いみたいだった。

「君は、どうしてそんなに僕の事を――」

そう言いかけたとき、鼻先に冷たい何かが当たった。

「あ、降ってきた」

 彼女はそう言うと、カバンを取って走り出した。僕も慌てて後を追う。

 彼女は僕の前を僕より速く走っていく。でも、ときどきこちらを見て立ち止まるから、僕が置いて行かれることはない。僕らが彼女の家の前に着くと、凛はこちらを見て笑った。

「じゃあまた明日、学校でね」

 彼女が毎日そうやって笑うから、僕は明日も学校に行く。彼女が、僕を繋ぎとめてくれていたんだ。

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