六、アークとの和解①
「失礼
翌朝早く、クロネリアの部屋に侍女がやってきた。
もちろん実家でそんなものを持ったことはない。
「イリス様がゆうべおっしゃっていました。本当にいいのですか?」
クロネリアは自分が専属侍女など持っていいのだろうかと
「はい。イリス様にお世話をするようにと正式に命じられました。どうぞ何でもお申しつけくださいませ」
短い
はきはきしていて
「さっそく
ちょうど昨日買ってもらったイエローのドレスを着ようとしていたところだった。
けれど流行のドレスは
「もしかして、イリス様は私が昨日ドレスの着方が分からないと言ったから……。それで専属侍女を付けてくださったのではないですか?」
クロネリアが
「それだけが理由ではないでしょうが……どうしてそう思われるのですか?」
「口調はそっけないけれど、イリス様は細やかな
クロネリアが言うと、ローゼはさらに驚いた顔をしてから
「同じようなことを、よくアマンダ様がおっしゃっていました。あの子は、本当はとても温かくて優しい子なのに、照れ屋でそっけないから誤解されてしまうのよ、と」
クロネリアはくすりと笑った。
「本当に。話す言葉はいつも事務的でそっけないけれど、後からじわじわと
「この短期間でイリス様をそこまで理解してくださった方は初めてです」
ローゼはてきぱきとドレスを着付けながら感心したように言う。
「きっと私の母が表情の
「そういうことだったのですね。それで前の二人のご老人も理解できたのですね?」
ローゼは
「理解できていたのか分かりませんが、理解したいと思っていました」
「……」
ローゼはしばし手を止めて、クロネリアを見つめた。
「え?」
「あ、いえ。お優しい方なのだなと思って……。それにこんなに若く美しいのに、なぜ
「ううん。いいの。私もどうしてこうなってしまったのかしらと思うもの」
クロネリアは小さくため息をついてから、すぐに晴れやかな
「でも悪いことばかりではないわ。こうして
「奥様……」
やがてドレスの着付けが終わり、クロネリアは
「何か
ローゼは物がなくて
「こちらは破れているようですが処分致しましょうか」
クロネリアは衣装部屋を
「いえ。実家に帰る時に着ますので。後で
「……」
ローゼはクロネリアを
「ではメイドに繕うように命じておきましょう」
「あ、いえ。自分でできますので……」
「メイドの仕事ですので、奥様がなさる必要はありません。それより髪飾りはどちらに?」
ローゼはきょろきょろと何もない衣装部屋を見回している。
「
「……」
ローゼは
その仕事は
イエローのドレスは
まるで王宮の
「よくお似合いでございます、クロネリア様」
ローゼが告げると、手伝っていたメイドたちは顔を見合わせ
「ほ、本当に。
「ええ。さすがイリス様お見立てのドレスですわ。素敵でございます」
今までクロネリアをほとんど無視していたメイドたちが、手の平を返したように
くれた。どうもローゼの顔色を
実家では
「クロネリア奥様に朝食をお出しして」
ローゼが告げると、メイドたちは
その様子をじっと見ていたローゼがクロネリアに問いかける。
「奥様、メイドたちに
ローゼの言葉にメイドたちはぎくりと
青ざめた様子でクロネリアを見る。
「いいえ。みんなよくしてくれています。感謝しています」
クロネリアが答えると、メイドたちはほっと息をついた。そして慌てて尋ねる。
「お、奥様、苦手な食材はございませんか? ございましたら遠慮なくお申しつけくださいませ。料理長に伝えますので」
そんなことを聞かれたのは初めてだった。
「いいえ。いつもとても
「
メイドたちはクロネリアとローゼに一礼して、そそくさと部屋を出ていった。
良家の侍女というのは、それなりの身分を持つものらしい。
ローゼのおかげで身の回りに不自由がなくなって、
強い立場の専属侍女がいるだけで、主人の
「いろいろありがとう、ローゼ」
「いえ、専属侍女の仕事ですから。もしも無礼な使用人がいたら、おっしゃってくださいませ。クロネリア様は仮にも
微笑んで言うローゼの言葉が心強かった。
実家でもこれまでの
やがて朝食を済ませ
「アーク様……」
「!」
なぜか
「お前……クロネリアか?」
「え?」
「そのドレス……」
見違えるようなドレスと化粧で、アークは
「そ、そのドレスは兄上が買ったのか?」
「ええ。昨日買ってくださいました。破れたドレスの代わりにと。身に余るようなドレスを買って頂きましたので、アーク様も昨日のことはどうか気にしないでくださいませ」
きっとイリスに言われて昨日のことを謝るために待ち伏せていたのだと思った。
けれどアークは見違えるほどの
「そ、そうか。お前はやっぱり……わざと僕のサーベルに切られるようにしたんだな! 最初からそうやって兄上に泣きついてドレスを買ってもらうつもりだったんだ!」
「アーク様……」
あの一瞬でそこまで計算できたなら相当な悪女だが、そういう風に考えられなくもない。
「お母様と似たようなドレスをよくも……」
「それは……」
アマンダ
「兄上にどんな
だ」
「アーク様……。私は呪いなど……」
「僕は
アークは真っ赤になって吐き捨てると、
「……」
またアークを
「似合っていると……思ったようでございますね」
ローゼは少し笑いを
「え?」
ローゼにはそんな風に聞こえたみたいだ。
しかしローゼはすぐに職務を思い出し、厳しい顔になって告げる。
「奥様に対してあのような態度はいけませんね。アーク様のことは私からイリス様に報告して厳しく注意していただきましょう」
「あ、いえ……
「報告もしなくていい? なぜですか?」
「報告すれば、イリス様はアーク様を
「かわいそう……?」
ローゼは目を丸くして聞き返した。
「ええ。だって、イリス様はあんなにアーク様を愛していらっしゃるのに」
ローゼは少し考えてから尋ねた。
「
クロネリアはローゼの問いに迷いなく答えた。
「ええ。とても」
ローゼはクロネリアの
「ふふ。そうですね。その通りでございます」
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