間章 枯山水

 教室の壁際に、生き物も水も入っていない水槽が置かれている。枯山水と呼んだ方が近いであろうその水槽の「世話係」を、彼女は名乗り出ていた。

 透明で、大きさは幅が一メートル、奥行きが三十センチメートル、高さが二十センチメートルほど。真っ白な砂のようなものが敷き詰められている。この章においては今後、砂と表記する。

 世話と言っても、何をするわけでもない。いつの間にか減っている白い砂を、生物準備室からもらってきて、継ぎ足すだけである。実は線をどこに引くとか、どの位置に置物を置くとかは決まっているのだが、年度末には飽きられてただの砂箱になっていることが多い。

 

 長期休暇の前は、水槽に透明の蓋がされる。五月の初めも同様である。

 国の内外では戦争が続いている。生徒らには休暇がある。何のための休暇なのかと騒がれることもあるが、大抵はただの難癖だ。戦争に入る前も同じように、長期休暇中に働く者も居れば休暇を取る者もいる環境だったのだ。


 彼女はカーテンの閉まった教室の中でしんと静まり返った枯山水を想像していた。

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