詰襟と戦闘学 春
彼はどこにでもいる普通の男子高生である。この時代、この国の高校では、学問のほかに、戦闘技術を学ばせていた。彼は人並み程度に戦闘学の成績があり、人並み程度のささやかな夢を持ち、つまりは人生の不安を常に抱えて生きていた。
戦闘学を学んで何をするのか。一般国民は兵士になるのだ。徴兵制ではなく、志願制だ。
戦闘学は好きな科目だったが、最近は授業の後で気だるさが残っていた。暖かくなった教室のせいかもしれなかった。
窓際の席で机に突っ伏し、夕暮れの太陽を細目で見やり、
「俺も兵士になるんだ」
腹の底にどろりと溜まったわだかまりを吐き出すように、そう呟いてみた。
その時。
「さんを付けるな!」
「しょ、将軍ちゃんさん!」
なんだなんだ。彼は突っ伏した態勢のまま、首だけ教室の前へ向けた。
戦闘学の先生と、クラスの真面目な女子が、何やら言い合いになっている。
将軍と聞くとすぐに校長のことを指していると思い当たった。校長が何故将軍と呼ばれているかは定かではないが、どうやらここに来る前の肩書きの一つらしい。
聞こえたのはそこまでで、その後で件の校長が教室に入って来た。
二学年の始まりに渡された校内広報に、校長、通称将軍のメッセージが載っていたのを思い出した。
……人生は一度きりです。後悔のないように、自分の道は、自分で選ぶことです。くれぐれも、命は大事に。
「俺は」
どうするか。その先を考えられずに、口を閉じた。
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