さあ付き合ってと君は言う
私の悩み事に対して悩む必要のない事だとバッサリと切り捨てた従兄は、私に付き合ってと軽く言って来たのである。
でも初対面です私達。
ええ?一目惚?私に?普通顔なのに?うそ!
混乱する私は見目麗しすぎる従兄をまじまじと見返した。
私の一つか二つ上らしい少年だが、実は楊家の血は彼に一滴も入っていない。
また、従兄なのに彼の年齢が私には不確かなのは、先日伯父が仕事の関係で彼を捕まえたらしく、とりあえず伯父が彼の身元引受人及び里親になったばかりであるという事情からだ。伯父は落ちている生き物は全部拾ってしまう人だ。伯父の愛鳥のワカケホンセイインコも伯父が拾った子だ。伯父の娘の純子も拾われっ子なのである。だから、今のところ大鷲君が伯父の家の居候であろうが、私は彼をすでに従兄として受け入れている。
そしてそんな初対面の従兄は、そんな事よりも、と言った。
「私の悩みはそんなことだった?」
「そんなこと。別の学校に進学が決まっている君は、そんな無駄なお友達関係は切る。よって悩む必要はない。そして、問題が消えた君は、僕の問題にこそ相談に乗るべきだと思う」
ああ、そういう付き合ってね、と、私は自分自身を恥じた。
一目惚れを自分にしてきただなんて、私はなんて自意識過剰かしら。
「どんな相談があるの?」
「だから僕と付き合ってって話」
えええ?本気の本気でお付き合いのお願いだったの?
付き合ってくれないかなって、従兄未満の美少年に言われたなんて!!
私の頭は大混乱だ。
「ま、まだ私は小学生だし!!」
「でも僕よりも五葉ちゃんの方が社会常識があるから大丈夫だよ」
「はへ?」
「行きたいところがあるんだ。僕を連れて行って欲しい」
一度ならず二度までも、恥ずかしい誤解をする私の頭の馬鹿やろう!
そう、一目惚れ、なんて漫画だけの話よ。
それに私は普通の顔をした普通の子供。
大鷲君は他人同然の人達の中で息が詰まってしまって、それで、ほんの少しの息抜きの遠出に私を指名しただけなのだ。従兄妹の中では私が一番常識的、それは私こそよくわかる。大鷲君の妹予定の純子はきれいだけど夢の中の人みたいにぽやっとしているし、私の双子の弟達は柴犬の生まれ変わりと言われている。
五葉、自分がウーパールーパー顔でしか無いって自戒するの!!
大鷲は私のそんな気も知らないで、ニコッと無邪気に笑うとベンチから立ち上がり、なんと私へと手を差し伸べた。漫画の王子様がするようにして!!
「どうしたの?嫌?」
彼の手を取らない私が不思議でしか無い、という顔を大鷲はした。
ドキドキしてしまっただけです。
瞳が金色に輝くって、どういうことですか!!
今日は土曜日の午後、学校も無い日だ。
今はまだお昼下がりという、まだまだ子供は外で遊んでいても良い時間だ。
受験が終わった私には、塾だって無いのだ。
「僕が嫌なのかな?」
「嫌じゃない!!」
ああ、恥ずかしいぐらいに大声を出しちゃった。
私は息を吸い直して気を落ち着けると、しっかりものの五葉であるいつもの声を出そうと頑張った。
「けど、何か、服がちぐはぐだなって。ほら、大鷲君は制服じゃない?そこに赤ちゃんみたいな恰好の小学生が一緒なのよ?」
何を言っているのか、私は。
だけど、自分で言ってみて、自分の姿が恥ずかしいなあと思ったのも事実だ。
大鷲君は身寄りが無い少年という立場だからか、黒い詰襟の学生服を着ている。
どこの学校のものかわからないが、ボタンが付いていない形で、学生服と言うよりもアニメの戦闘服に見えるような格好の良いものだ。
反対にバリバリの私服である私は、ちょっとどころかかなりの残念服なのだ。
その私服は環さんが選んでくれた、誰にでも好感を持たれる某ブランドのお嬢様風の小学生スタイルであるのだけれど。
つまり、柔らかいカットソー素材で襟にピコットレース飾りもある白いブラウスに灰色のプリーツスカート、そこに無意味に飾りのある色とりどりの派手なカーディガンを重ねるという清楚可憐な組み合わせだ。ただ、大人には微笑ましいが子供には疎ましい服になるというだけだ。
今どきの子供は着たくないこんな私服を環さんが私に着せたのは、継母としての私への嫌がらせではなく、今日は祖父母宅に親族全員集合というホームパーティの日だったからに他ならない。割合と傍若無人な彼女だっても、自分の大事な人達には配慮をするのである。祖母が大好きなブランドなんだよね。
そして、私が謎な従兄の大鷲君に今日出会った事情が、今日親族大集合があったからだ。
「どうしたの?服がちぐはぐ?だからいいんじゃない。何かあったら妹ですって君を紹介して、あの家に僕が突撃をかました言い訳にできる」
「突撃をかます?あの家?って、きゃあ」
大鷲は意外と堪え性が無いのか、私の手を勝手に引いてベンチから立たせてしまうと、そのまま私の有無を言わさずに歩きだした。
今日が初対面だった少年に引っ張られてこのまま祖父母宅から遠のいてもいいのかと、私は戦々恐々となりながら自問するばかりだ。
だから、誘拐者に抵抗する事にした。
「大鷲、くん?私達はマモとシズを見守って無きゃじゃない?」
大鷲は、心配ない、なんて言い切った。
いいえ、心配ありまくりです。
「マモとシズは楊家にも、ママの家にだっていなかった暴れん坊主なのよ」
「大丈夫。かわさんが言うには、佐藤家の子供はあんなもん、らしい」
私の伯父、
だから大鷲君も伯父をかわさんと呼んでいるのだろう。
私が無意味な事に納得しているうちに、私よりも常識が無いと自分を評していた少年は勝手に行動を起こした。
「純子!そこのチビ二匹のお守りを頼むね!」
純子はその名の通りに純粋な天使みたいな微笑で自分の新兄に頷いて見せ、私の弟達はそんな純子に、ほうわあ、となって動きが止まっていた。私が怒るとさらに喜ぶ馬鹿弟達が、一瞬でお利口さんになるなんて。
やっぱり美少女と普通って違うんだな。
「じゃあ、行くよ」
大鷲君は私の手首を掴んで歩きだした。
私は弟達と純子達の様子を見て、大鷲君が私を選んだわけが分かってしまった。
純子ならば弟達を抑えておけるからだ。
「あれ、でもそれだったら純子と行けば良かったんじゃない?」
「僕は君を見てね、君ならばって思ったんだ」
私の頬は勝手に緩み、きっと口元はにへらって笑っていただろう。
手首を掴まれて引っ張られるのは、ちょっとどころかかなり不本意であるが。
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