新しくできた従兄はNNNのエージェントでした
蔵前
私の悩み事
私、
それは、私の顔が美人でもなく普通だ、という事ではない。
普通の顔で生まれてくる人の方が多いのだ。
正直に言うと、幼稚園の頃は悩んでいた。
幼稚園児ぐらいになれば女の子の自我は出来上がる頃だし、子供同士や親同士でマウンティングをし合う頃でもあるから、両親の見栄えが良いのに普通顔という私の外見はもってこいの攻撃対象になったのだと思う。
「お父さんに似ていないのね」
「本当のお母さんに捨てられたって本当?やっぱり不細工だから?」
幼稚園児が他所の家庭のことまで知るわけは無いのだから、多分どころか、当時私を攻撃してきた子達は、親の言葉をそのまま言って来ただけだろう。私の母が継母であるという事実は、当時五歳の私さえも知らないことで、その子達だって知っているはずがなかったのだから。
どうしてその子たちの母親がその事実を知っていたのか。
私が二歳の時のとある日曜日。親子連れでにぎわっている公園にて、私達家族がほのぼのしてるそこに、私を捨てた母が突撃してきたらしいのだ。
私が五葉の本当のお母さんなんだからやりなおしましょう、五葉を捨てた事を本当に後悔しているのよ、と。
その後に我が家は引っ越したらしいけれど、人の口に戸は立てられないものだ。
私と両親の事を知っている人から知らない人へと情報は渡り、いつのまにか幼稚園中の誰もが知ることとなったのだ。私が実母に捨てられた子で、大好きな母が実母では無いという、事実が。
でも、母が実母じゃ無かった事実をそんな事だって私が今も昔も笑って言えるのは、継母だろうがママがママだったからだろう。ママは、私が五葉だから好きだと言い張り、離婚する事になったら私を連れて実家に帰るから安心しろと言ってパパを泣かしちゃうし、私がママをママと呼ぶ限り自分は私のママであると言い切ったのだもの。
私はママを尊敬過ぎて、
だから私達家族のきずなはかえって揺るぎないものになったと思うのだが、それが気に喰わない人は結局は私の外見をあげつらう事にするらしい。
一番弱い人を狙えって言うものね。
私が五歳の頃に顔の事で揶揄われたのはそういう事。私の双子の弟達の
「五葉ちゃんだけ不細工で可哀想ね。おっきくなったら整形したら?」
ある日、意地悪で有名な
きれいだってみんなから言われている従妹の純子ちゃんではなく、私と同じぐらいの普通顔の美桜ちゃんがそんな事を言ったからこそ、私はかなり傷ついた。
私はこんな顔に生まれてきた自分が悲しくて悲しくて、どうしようもなく悲しくて、もう我慢できなかった。子供だからうわーんと泣き出した。
「もう顔を変えたい。ブスはいや~」
「整形は顔が痛くなるからしない方がいいぞ。と先駆者のあたしが言ってみる」
環さんだった。
彼女は人形みたいな顔を、ものすっごく悪そうに歪めると、自分のスマートフォンを私に向けてきた。
「あたしのもとはこんな顔。知らなかったっけ?結婚前は刑事やってたから顔を変えるハメになっちゃったの。骨削って痛ぇ~のなんのって。やんない方がいいよ。整形前のあたしの顔の方がいい感じでしょ?」
私は涙が止まっていた。
環さんが本当の顔だって見せた画像は、狸っぽい顔をした丸顔の女の人が笑っているのだ。これが本当の彼女の顔?
「ぱ、パパはママが整形したって知っているの?」
「もちろんだよ。あいつは自分の顔にさえ無頓着な奴でしょう?あたしの中身が好きだってあたしに惚れたんだよ。あとね、
「マモもシズもパパ似じゃないの?」
「可愛いから違うな」
「ええ?」
環さんはフフッと笑うと、スマートフォンの画像を変えた。
すると、二人の子供達が戦隊ものらしきポーズをとる写真画像に変わった。
幼稚園ぐらいのこの子供達が誰か私にはわかるが、今の二人の姿を知っていても、将来的にイケ面になるとは思えないという顔立ちだった。
「パパと伯父さんだよ。子供時代は目玉ばっかり大きく見えるからさ、目玉お化けって揶揄われてたらしいよ。笑えるだろ。子供時代の顔は大きくなったら変わるんだよ。だからね、五葉も大人になってから悩もう。どうしても自分の顔が嫌だってんなら、整形では大先輩のあたしが相談に乗るよ」
私は環さんが大好きだ。
だから、彼女から今悩む必要のない事で悩むなと薫陶を受けた私が、子供でしかない今の顔について悩んでいるはずなどないのだ。
十二歳の私が悩んでいるのは、進学先について、だ。
仲良しグループだった四人組で、私一人だけ第一志望に受かったことが不幸の始まりだった。友達を続けるならば彼女達と同じ学校に行くべきと言われて、それを選択するまで友達じゃ無いと仲間外れにされている。
「第一志望に行くべきだね。君が言いなりになるまで無視って行動を取って来た子達と、この先友達でいる必要がある?」
私は公園のベンチで私の横に座っている少年を見返した。
彼は色素が薄く、薄茶色の髪に金色に光るような瞳をした、楊家の一族らしい見栄えよろしい人である。彼はにやっと猫みたいな笑顔を見せた。
「僕と付き合ってくれないかな」
えええ?
今日が初対面ですよ、私達。
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