第14話「美しさの本当の意味を知ってはるやろか」
●お悩みの内容
名前:エリカ・スミス
年齢:29歳
職業:スーパーモデル
出身:イギリス(日本在住5年目)
私は15歳でモデルデビューし、世界的なファッションブランドの広告塔として活動してきました。雑誌の表紙を飾り、パリコレやミラノコレを歩き、「完璧な美」を体現する存在として称賛されてきました。
でも最近、急に怖くなってきたんです。鏡を見るたびに、目の横にできた小さなシワが気になって仕方ありません。メイクで隠せるとわかっていても、素顔の自分を見られることが怖い。誰かがすれ違いざまにスマホで撮った すっぴんの写真がSNSに出回ることも、毎日のように不安です。
つい先日、15年ぶりに再会した幼なじみに「全然変わってないね!」と言われて、なぜか泣きそうになりました。変わっていないように見せるために、どれだけ必死で努力しているか、誰にもわかってもらえない。
食事は極端に制限し、毎日何時間もジムに通い、新しい美容医療も試し続けています。恋愛も、相手が私の完璧じゃない部分を見てしまうのが怖くて、ここ数年避けています。
「エイジレス」という言葉は、私にとって呪いのようなものです。この業界では35歳以上のモデルはほとんどいません。あと数年で、私も……と考えると、眠れない夜が増えました。
モデル以外の仕事の経験もなく、学歴もありません。今の私には、美しさしか取り柄がないのです。この美しさが失われていくことへの恐怖と、それを必死で隠そうとする自分が、とても惨めに思えます。
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●トラばあちゃんより
エリカはん、うちね、あんたに聞きたいことがあるんや。
あんた、ほんまの美しさっちゅうのは何やと思う? それは若さだけのもんなんやろか? シワがないことが、美しさの全てなんやろか?
うちも若い時は、着物の柄を選んだり、髪型を気にしたり、化粧にも気を使うたもんや。でも108年も生きてみて、わかったことがある。本当の美しさは、年齢とは関係ないんや。
ほら、桜の木を見てみ。若い蕾の時も美しいけど、満開の時も美しい。散りゆく時も、また違う美しさがある。人間だって、同じことやと思うわ。
エリカはん、あんたは今まで「完璧な美」を求められ過ぎてきたんやと思う。でもな、完璧な美しさなんてこの世にあらへん。不完全やからこそ、人は愛おしいんや。
うちの親友のミチコはんはな、80歳を過ぎた今でも、市民劇団で主役を張っとるんや。確かに、顔にはシワがある。でも、その人生経験から醸し出される存在感は、若い役者さんにはない輝きがあるんや。
エリカはんも、今までの人生で得てきたものがあるはずや。15年もトップモデルとして活躍してきた経験、世界中の人々との出会い、様々な文化に触れてきた感性……。そういうものは、決して若さだけでは得られへんもんや。
それに、あんた日本語もぺらぺらやないの。そんな才能もあるのに、なんで「美しさしか取り柄がない」なんて思うの? もったいない!
うちはな、エリカはんに提案があるんや。これからは、「完璧な美」を演じることから少し離れて、等身大の自分を大切にしてみいひん?
例えば、あんたの経験を活かして、若い女の子たちに本当の美しさを教えるような仕事とか。美しさに振り回される女性たちの心の支えになるような活動とか。そういうことができる人って、そうはおらへんと思うで。
恋愛のことやけどな、本当に大切な人は、あんたのありのままを愛してくれるはずや。完璧な仮面の向こうやなくて、ちょっと疲れた顔をしたエリカはんの方が、きっと素敵やと思うで。
人間はな、いくつになっても、新しい可能性を見つけられるもんや。エリカはんの場合は、むしろこれからが本番かもしれへん。今までの「完璧な美」から解放されて、もっと自由に、ありのままの自分で生きていける。そう思わへん?
美しさは移ろうもんやけど、心の輝きはずっと続くんや。エリカはんの新しい人生、楽しみにしてるで。また話聞かせてな!
あ、それと……。今度うちとこに来る時は、すっぴんで来てな。お化粧せんでええから。ありのままのエリカはんと、ゆっくりお茶がしたいわ。
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