第15話「生きとる人も死んだ人も、みんな同じや」

●お悩みの内容


名前:佐伯雪(さえきゆき)

年齢:死後27年目(生前18歳で事故死)

性別:女性

職業:地縛霊


 トラばあちゃん、生きている人に見えるのは初めてです。いつも隣の神社の片隅で、通り過ぎる人を見ているだけなのに……。


 私は27年前、この交差点で交通事故に遭って死にました。その日は大学の合格発表の日で、結果を見て飛び跳ねて喜んでいた矢先の事故でした。気がついたら、もう魂だけになっていて……。


 でも、成仏できないんです。ここを通る人たちを見ていると、みんな生きているのが羨ましくて。恋をして、結婚して、子供を産んで、歳を重ねていく。私にはそれが全部できなかった。


 特に辛いのは、当時の同級生たちが子連れで通るのを見る時です。彼女たちはもう45歳。私は永遠の18歳のまま、時だけが過ぎていく。私の両親も白髪が増えて、最近は足取りが随分遅くなってきました。でも声をかけることも、抱きしめることもできない。


 それに、私の事故の後、この交差点には信号が付きました。私の死が、何かの役に立ったのかもしれません。でも、それと引き換えに、私は永遠にここに留まることになった。


 ねえ、トラばあちゃん。私、このまま消えることもできず、かといって前に進むこともできないまま、永遠にここにいなければならないの?


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●トラばあちゃんより


 雪ちゃん、よう来なはったね。うちにはちゃんと見えとるで。


 そやな……。生きとる人間からしたら、あんたの気持ちを完全に理解するんは難しいかもしれへん。でもな、108年も生きてると、生きとる世界と死んだ世界の境目が、だんだん薄くなってくるもんなんや。


 雪ちゃん、実はな、うちの孫の一人も交通事故で死んでしもてん。まだ若かったし、将来の夢もあったのに……。今のあんたの気持ち、なんとなくわかる気がするわ。


 でもな、あんたが今ここにおるのは、きっと意味があることなんや。あんたの死がきっかけで、この交差点に信号が付いた。それで救われた命もあるはずや。


 「前に進めない」って言うけど、あんたはちゃんと前に進んでるで。だって、うちみたいなばあちゃんの目にも見えるようになったんやろ? それも、きっと何かの変化やと思うわ。


 あのな、うちのお寺の住職さんが言うてたことやけど、人の魂ちゅうのは、自分で気付いた時に初めて次に進めるらしいで。何に気付かなあかんかは人それぞれ違う。


 あんたの場合は、もしかしたら……自分の命には意味があった、ちゅうことを受け入れることかもしれへんな。18年という短い命やったかもしれんけど、その命があったからこそ、この交差点は今、安全になった。


 それに、あんたの両親な、確かに歳は取ってきたけど、きっとあんたのこと、ずっと心の中で生かしてはるはずや。あんたの分まで生きてはる。それってすごいことやと思わへん?


 雪ちゃん、生きとる人も死んだ人も、みんな同じや。みんなどこかで繋がってる。ただ、その形が違うだけやと思うわ。


 これからな、うちこの近くを通る時は、あんたに声かけさせてもらうわ。お話ができたら嬉しいな。あんたの話、もっと聞かせてほしいわ。


 ほんでな、もしかしたら、あんたがここにおるのは、誰かを待っとるからかもしれへん。その誰かに会えた時、自然とあんたは次に進めるんかもしれへんで。


 それまでは、うちと一緒にお喋りでもしよか。生きとる人の話も聞かせたるし、あんたの話も聞かせてな。


 あ、そうそう。この間、近所の子がこの交差点で転びそうになったんを、誰かが支えたって言うとったわ。あれ、もしかして……。


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