第11話「仕事に貴賎なんてあらへんで」
●お悩みの内容
名前:山内浩志
年齢:44歳
性別:男性
職業:遺品整理士
私は遺品整理の仕事をしています。孤独死や事故死の現場を整理し、残された品々を片付ける仕事です。しかし、この仕事を始めて15年、最近になって、深い虚無感に襲われるようになりました。
先日、とある老人の遺品整理をしていた時のことです。段ボールの中から、一枚の写真が出てきました。笑顔の若い女性と、その膝の上で笑う赤ちゃんの写真。裏には「1965年、私の宝物」と書かれていました。その老人は独り身で亡くなった、と聞いていました。でも、その人にも確かに家族がいて、幸せな時間があったはずなのに……。
遺品は、その人の人生の痕跡です。思い出の品々、大切にしていた手紙、誰かへの想いが込められたプレゼント。でも、最後はすべて「処分」という形で消えていく。時には、家族すら引き取り手がない場合もあります。
そんな現場に立ち会うたびに、人生とは何なのだろうと考えてしまいます。私たちが必死に生きて、集めて、大切にしたものは、最後には誰かの手によって片付けられ、処分される。その「誰か」が今の私なわけです。
この仕事は社会的に必要とされているとわかっています。でも最近、自分は人生の「掃除屋」なのではないかと、そんな思いが心の奥底でうずきます。それでいて、この仕事をやめる気にもなれない。人の最期に関わる仕事だからこそ、誠実にやり遂げたい。そんな気持ちとの板挟みに苦しんでいます。
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●トラばあちゃんより
浩志はん、難しい仕事をしとるんやな。でも、うちから見たら、あんたの仕事はとても尊いもんやと思うで。
うちも108年も生きとると、たくさんの人の死を見送ってきた。友達も、親戚も、夫も……。その度に思うのは、人の死っちゅうんは、残された者にとって想像以上に重たい現実やちゅうことや。
その重たい現実に向き合うて、遺された品々を丁寧に扱うあんたの仕事は、ほんまに大切なもんやと思う。「掃除屋」なんかやない。あんたは「記憶の番人」なんや。
あの写真のことやけど、確かに切ないお話や。でもな、あの一枚の写真に写った笑顔は、その時確かにあった幸せの証やで。たとえその人が独りで最期を迎えたとしても、人生のどこかで、愛する人と幸せな時間を過ごせたんやから。
人の人生はな、必ずしもハッピーエンドで終わるとは限らへん。むしろ、ほとんどの人生には後悔や寂しさが付き物や。でも、だからこそ、その人の遺品に込められた想いを理解できる人が必要なんや。
浩志はんは、亡くなった人の最後の物語の証人なんや。遺品一つ一つに込められた想いを感じ取れる人やからこそ、こんな風に悩んでるんやと思う。
でもな、あんたの仕事のおかげで、遺された品々は、ただのゴミとして雑に扱われることなく、その人の人生の証として、きちんと最期まで扱われるんや。それって、すごく大切なことやと思わへん?
仏教では「諸行無常」って言うてな、この世のものはすべて移ろうもんやと教えとる。人間の体も、持ち物も、想い出も、いつかは形を変えて消えていく。でも、その過程にも意味があるんや。
あんたは、人生の最後の場面で、その人の尊厳を守る大切な仕事をしてる。一つ一つの品物に込められた想いを感じ取って、丁寧に扱う。そうやって、その人の人生を最後まで大切に扱うことができる。それって、すごく価値のあることやと思うわ。
浩志はん、あんたがこんな風に悩むんは、その仕事に真摯に向き合ってるからや。人の人生の痕跡を扱う仕事やからこそ、深く考えてしまうんやろ。でもな、それでええんや。
そうそう、うちの若い頃の友達に、お寺の住職さんがおってな。その人が言うてた言葉を思い出したわ。「人の死に際して悩み苦しむことは、その人の人生に真剣に向き合えている証拠なんや」って。
浩志はんの仕事は、人の人生の最後の一頁を、丁寧に締めくくる大切な仕事なんや。その重みを感じるからこそ苦しいんやろうけど、それはあんたが誠実に仕事に向き合ってる証やと思う。
仕事に貴賎なんてあらへん。どんな仕事でも、まっすぐに向き合って、誠実にやることに価値があるんや。あんたの仕事は、人の人生の最後を看取る、そんな大切な仕事なんやで。
また何か思うことがあったら、いつでも話しに来てな。
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