第10話「誰にでも居場所はあるねんで」

●お悩みの内容


名前:前田葵

年齢:15歳

性別:女性

職業:中学生


 トラおばあちゃん、私、もう学校に行けないかもしれない。


 最近、私のことを撮った写真がSNSで拡散されて……。体育の着替えの時に誰かが撮ったみたい。写真には「デブ」とか「キモい」とかコメントがついてて、学校中の人が見てる。


 私、確かに太ってる。でも、それは病気のせいなの。甲状腺の治療を受けてて、薬の副作用で体重が増えちゃうの。でも、そんなこと誰にも言えない。


 教室に入ると、みんなが私を見て笑う。スマホを見せ合って、クスクス笑ってる。給食の時間も「そんなに食べてたらもっと太るよ」って言われる。保健室に逃げ込んでも、SNSのコメントは消えない。


 お母さんには心配かけたくないから、まだ話してない。先生にも言えない。だって、言ったところで写真は消えないし、みんなの記憶からも消えない。


 私、どうしたらいいの? 教室に入るたびに足が震えて、息が苦しくなって……。夜も眠れない。鏡を見るのも怖い。私が悪いの? 私が生まれてこなければよかったの?


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●トラばあちゃんより


 葵ちゃん、まず言いたいことがあるんや。


 あんたは何も悪くないで。何一つ、あんたが悪いことなんてあらへん。


 うちもな、戦争中に疎開してきた時、田舎の子らに「お上品ぶって!」って虐められたことがあってん。着物の着方が違うとか、言葉遣いがおかしいとか……。今思えばそんなこと些細な事なんやねんけど、当時は死にたいくらい辛かったわ。


 でも、葵ちゃん。人の心の冷たさを知ることは辛いけど、そんな時こそ、あんたの心を強く持つんや。


 うちが108年生きてきて、はっきりわかることが一つあるんや。人を傷つける人間は、自分の中に深い闇を抱えてる人が多いってことや。あんたの写真を撮って拡散した人も、きっと自分の心の中の何かに苦しんでるんやと思う。それは決して許されることやないけどな。


 そやけど、葵ちゃん。これは絶対に一人で抱え込んだらあかんことや。まずお母さんに話してみ? お母さんはあんたの味方や。心配かけたくないっていう気持ちもわかるけど、お母さんにとってはあんたが一番大切な宝物なんやで。


 それと、これは犯罪や。個人の写真を勝手に撮って拡散するのは、立派な犯罪なんや。先生にも必ず相談するんや。


 うちにも孫がおってな、その子が言うてたんやけど、今はSNSの投稿を消してもらえる制度があるらしいで。「発信者情報開示請求」とかいう難しい名前の制度もあるみたいや。


 葵ちゃんな、今は辛いけど、必ず味方になってくれる人はおるんや。一人で抱え込まんでええ。


 それとな、体型のことで人を馬鹿にする奴らこそ、心が醜いんや。あんたには何の落ち度もない。病気と闘いながら、それでも前を向いて生きてるあんたの方が、よっぽど強くて美しいで。


 うちの若い頃からの友達にな、英子っていう子がおってん。その子も病気で太ってて、よう虐められてたんや。でもな、その子は今、素敵な洋服屋さんをしとる。「自分みたいに悩んでる人に、似合う服を作ってあげたい」って。辛い経験があったからこそ、人の気持ちがわかるようになったんやて。


 葵ちゃん、あんたにはあんたにしかできないことがあるはずや。今は見えへんかもしれへんけど、必ずある。だから、「生まれてこなければ」なんて、そんなこと思わんでええ。


 明日からすぐに楽になるとは言えへんけど、一緒に乗り越えていこ? うちでよければ、いつでも話を聞かせてな。ほんで、もしよかったら、英子はんとも会わせたいなぁ。きっと、ええ話ができると思うで。


 葵ちゃんの居場所は、必ずあるからな。一緒に探していこか。

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