第28話 朝が来てしまった

チュンチュンと鳥のさえずりがきこえる。ゆっくり瞼を上げれば、眩しい日の光が部屋に差し込まれていた。ああ、朝が来たんだ。……ん?朝が来た?

 

「はっ。奏さん!!朝です、起きてください!」

「んんーあと五分。」

「そんなこと言ってる場合じゃないです!遅刻しますよ!」

「ああーそんなこと?大丈夫大丈夫。今日はお休みだから。」

「そんなことあるわけないじゃないですか。今日は平日です!」


 奏さんは目を閉じたままヒラヒラと手を振った。

 あのまま私たちはソファーに座ったまま寝てしまったようだ。変な体勢で寝ていたからか背中が痛い。それよりも、窓からはさんさんと入り込む日光。日の高さからしてもしかしたら既にお昼前ごろの時間かもしれない。


「奏さん、部屋に時計はないんですか?」

「あるよー。あっちー。」


 眠い目をこすりながら奏さんは壁を指差す。部屋に飾られた時計は、午前十時過ぎを指している。………遅刻確定だ。


「かかか奏さん!奏さん。」

「なーに?」

「遅刻確定です!とりあえず急いで学校行きましょう!」

「ええー面倒。」

「何言ってるんですか!」

「大丈夫だって。今日は既に欠席の連絡行ってるから。病欠ってことになってるんで。」

「奏さんはそれでいいかもしれませんが、私は連絡してませんし。」

「それは大丈夫。琴ちゃんの分も連絡済み。」

「はい?」


 やっとで目が覚めたのか、奏さんはぐぐーっと背伸びをしている。奏さんも無理な体勢で寝ていたせいか、背中からパキッと音が聞こえる。


「奏さん、どういうことですか。」

「そのまんまの意味だけど?」

「欠席連絡なんてした覚えがないです。」

「昨日の間に済ませておきました。具体的に言うと、琴ちゃんが寝ている間に終わらせました。」

「はい?」

「というわけで、顔洗って着替えて出かけよう!」

「ちょっと待ってください。」

「待たない。」


 奏さんは使用人の方々を手際よく呼び出すと、テキパキと指示をだした。さっきまで眠そうにしていたのが嘘のようだ。

 しばらくすると、コルリさん、メジロさん、ヒバリさんが洋服を持ってきて、それに着替えるように指示された。


「え、私は制服で学校に。」

「だーめ。さあ、これ着て。ああ、ちょっとまって。琴ちゃんはこっちの方が似合うか。ヒバリ―。あれ持ってきて。」

「かしこまりましたー。」


 それから私は着せ替え人形のように何着か服を着替えさせられた。


「完成。うん、可愛い。」


 あっという間に髪も整えられ、綺麗に結われている。服も何故か私の大きさにピッタリだ。奏さんもいつの間にか着替えており、その姿は私が初めて会った時の美少年に限りなく近い恰好をしていた。ワイシャツにベストにズボン。胸元にはループタイがついている。古風の中に遊び心が垣間見えるような格好だ。


「テーマは、お嬢様と私立探偵。じゃあ、いきますか。」

「なんですかそれ。って奏さんその恰好で行くんですか?」

「そうだけど?デートみたいで良いでしょう?」

「デートって。」

「さあ、行こう。コルリ、車出してくれる?」

「既に運転手さんには声をかけていますわ。」

「さすが。」


 奏さんは私の手を引いて歩き出す。振り返ると、メジロさんとヒバリさんがにっこり笑って頭を下げた。


「お嬢様方、行ってらっしゃいませ。」

「ちょっと。」


 奏さんは鼻歌まじりに歩いている。昨日の夜は薄暗かった廊下も今はとても明るい。昼と夜で随分印象が違う。

 慣れないヒールのある靴を履かされている私は、トットとぎこちない歩みで奏さんの後に続いた。


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