第12話 身投げ?
重い足取りでドアを開いて部屋に戻る。どうしよう。寮会議で謝罪って。もしかして入寮初日で退寮…退学なんてなったらどうしよう。ため息とともに、洗濯物を床に置いた。ただ頼まれたことをしただけなのに。こんなことになるとは。
「はあー…。」
大きな大きなため息が出る。とりあえず結衣ちゃんに相談してみようかな。というか結衣ちゃん何処に行ったんだろう。気づいたら部屋からいなかったんだよね。
ゆっくり立ち上がって、窓に近づく。寮の窓から見える景色は、何の変哲もない校舎が見えるだけだった。さらに大きなため息がでる。そのまま視線を落とすと、誰かの姿が見える。確かもう既に外出禁止の時間のはずだけど…誰だろう。
目を凝らしてみる。二人で話し合っている…ように見える。一人は知らない子だけど、もう一人は……あれ?
「結衣ちゃん?」
見覚えのある少女がにっこりと微笑んで相手に手を振っている。木が邪魔ではっきりとは見えないけど、相手は着物に身を包んだ若い女性のようにみえる。母親…にしては若すぎるような。友達?姉妹?うーん、もう少し良く見えたら良いんだけど。
窓を開けて少しだけ身を乗り出してみる。あ、もう少しで見える…あと少し、見えた!
その瞬間だった。
「わっ。」
窓の桟に置いた手が滑った。しまった。ここ何階だっけ…確か三階…ってことは落ちたら確実に…。こんなところで私は人生を終えてしまうのかな。弟と妹もいるのに。
ぎゅっと瞳を閉じた瞬間だった。後ろから部屋をノックする音が聞こえる。
「失礼するわ…って、あなた!何をやっているの!」
もう少しで落ちるという時、私の足は誰かに掴まれ力いっぱい引っ張られた。その反動で私はその人もろとも部屋に後ろ姿で飛び込む形で大きく尻餅をついた。
「痛っ。」
強打したお尻がジーンと痛い。背中は誰かが緩衝材になってくれたようで、幸いにもぶつけずに済んだみたいだ。よかった。…ってお礼を言わなきゃ。
私は慌てて振り返って、床に手をつき、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。助かりました。」
「怪我はない?」
「はい、お尻を打ったくらいで他は大丈夫そうです。」
ゆっくりと顔を上げると、そこにいたのはメガネが特徴的な…。
「紋さん?」
「怪我がないならそこを退いてくださると有難いのだけれど。」
「すみません!」
慌てて退いてさらに深々と、床に頭がめり込むんじゃないかってくらい頭を下げる。
「頭を上げて。額に傷がついてしまうわ。全く…、先ほど
顔を上げると、紋さんの顔は紅く、額には薄っすらと汗が滲んでいた。
「尾野さん?」
「あなた方の班の班長です。」
「そうなんですね。」
あの班長って尾野さんって名前なんだ。って、それは置いといて、身投げ?
「ほんとにもう、身投げするほど悩んでいるなら、行動に移す前に私に相談しなさい。たまたま私が来たからよかったものの。」
「えーっと、はい…、すみません。」
「本当にもう……。ん?さっきからとぼけたような顔をしてどうしたのかしら。まさか頭でも打ったの?それならすぐにお医者様に診てもらわないと。」
私、そんなに変な顔をしているだろうか。
「えっと…、何と言いますか。」
「何?」
「頭は打っていません。大丈夫です。それと、確かに悩んではいましたが、さっきのは身投げではなくてですね…。」
ことの経緯を説明すると、紋さんの顔はみるみる赤くなった。
「紛らわしいことしないで頂戴!もうっ。」
紋さんは慌てて立ち上がった。その時、ひらりとポケットから紙が落ちたけれど、紋さんは気づかず部屋から出て行ってしまった。
「紋さん。何か落ちましたよ。」
私が声を掛けたときには既に紋さんは廊下の遠くの方まで歩いて行ってしまっていた。追いかけようとしたけれど、また班長に見つかっては厄介だ。どうしようか悩んでいるところに、タイミングが良いのか悪いのか結衣ちゃんが戻ってきた。
「ただいま、って琴ちゃんどうしたの?なんか部屋荒れてるし、窓開けっぱなしだし。」
「えっと、まあ、うん。」
「ん?」
結衣ちゃんは首を傾げた。
「結衣ちゃんは何処に行ってたの?」
「えっと、まあ、ちょっとね。」
結衣ちゃんはにっこり笑ったがそれ以上は答えてくれなかった。
「結衣ちゃん。」
なんて言葉をかけようか、言葉が続かない。小さな沈黙。それを遮ったのは部屋のノックオンだった。
「点呼でーす。二人ともいますか?」
「はい。」
「了解でーす。では失礼しまーす。あ、明日は寮会議があるのでお忘れなくー。」
ふわあ、とあくびをして点呼にきた寮生が扉を閉めた。
「琴ちゃん、寝ようか。今日は編入初日で疲れたでしょう?」
「うん、そうだね。」
「おやすみ。」
結衣ちゃんはさっさと布団の中に入ってしまった。結衣ちゃんは向こう側を向いているので私からは顔が見えない。
そういえば点呼の人が明日寮会議って言ってたよね。寮会議ってどんな感じなんだろう。
「結衣ちゃん、寮会議って…。」
スースーと寝息が聞こえる。
「ううん、何でもない。おやすみ。」
私も布団に入った。静まり帰る部屋。窓からはたくさんの星が見えた。
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