よろこびの最たるもの

今はまだ。貴方が居ないときにこそオレンジ色の石は見つかる。


拭きとれば、さりさりと鱗きらきらと。女は古代、魚であった。


闇の中銀に耀く星に似たポン酢の中の魚の破片


まだそこに居たのか蜘蛛よもう一度会ったら次はあだ名で呼ぼう


水妖よウンディーネ、そこで絶えたか曹達水、銀玻璃のぴちり弾けたところ。


暗くなる前から僕は見つけてた星屑色の人殺し 君




桜咲く春だ耳まで春っぽいドーナツポップばかり売れゆく


多分今日いい日だったのでココナツの食べこぼしたやつが星空


雨の降る真夜中暗い昏い中硝子の杯を割って立ちたい


つくりものじみた黄色の身体さえ呼吸しているっていうのに




透明に近づいている水底の小石のようにあじさい、文月


雲は祝く紫陽花より濃く濡れてゆけこの世すべての信号が赤


ドトールで皆、星の言葉を交わしてるアイスコーヒーストローで混ぜカララリララリカロカランカラ……


風鈴は好きだろうか風のことなにを話しているんだろうか


指先がヨーヨーの輪をくぐるとき夏の扉のひとつが開いた


エビセンのように死んでる蝉などと私の違いをレポートにせよ



天井の向こうで星が流れると仮定し呟く怠惰な祈り


巻尺の羽衣纏い姿勢よく服飾売場に天女降り立つ


ラ・マルセイエーズのルフランの心地。声に出さねど。声に出さねど。


道を往く老若男女にキスをするキャラメルポップコーンの妖精


指サックみたいに頁を軽やかに捲る為の器官だ指輪


よろこびの最たるもののひとつとし熟れた果実をまるく頬張る

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短歌 灰色A @8116a

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