第22話 光り輝く、美しい翼 

 リポーターの仕事は過酷だ。イベントや事件があれば雨風構わず現場へ出かけ、取材したことをテレビやラジオの放送で伝える。時には、命を懸ける必要もある仕事だ。戦場の取材に赴き、流れ弾に当たるとか、爆破テロに巻き込まれるとか、そんなことを恐れていたら、役目を全うすることなんて不可能だからだ。

 だが、新人リポーターの若い女性は、震えていた。


 ――こんなトコ、来るんじゃなかった。


 言葉が出ないのは、彼女が仕事を忘れたからではない。横須賀の街で暴れまわる青いドラゴンや真っ赤なフェニックス、白い虎、黒い人型ロボットが破壊した建築物の破片が落下し、身体を押し潰されてしまったのだ。部品も、人材も揃っていない状況で、リポーターとしての彼女に出来ることは、何もなかった。

 死ぬのは、当然怖い。だけどリポーターとしての使命を燃やす彼女は、それすらも原動力にして取材をするつもりでいた。しかし、目の前の惨劇は、彼女の想定を遥かに上回るものだった。第二次世界大戦のことは話に聞いた程度の知識しかないが、「きっとこういうことなんだろうなぁー」とぼんやり考えてしまった。

 現実が覚悟を上回る程に凄惨だとして、そこから逃げ出したいと願うことは、果たして職務怠慢と責められるべきだろうか?

 白い虎が、女性に気付いた。きっと、本能の赴くままに破壊を繰り返しているあの虎は、わけもなく自分を殺すつもりなんだろう。一瞬で自分の常識を、当たり前に存在する世界が破壊した化け物を前に逃げられるとも思えず、女性は思考を放棄した。

 刹那、白い虎が女性を噛み砕かんと、大口を開ける。


「とあああああああああああああああ!!」


 だが、成人男性の叫び声がしたと同時に、白い虎は横に吹っ飛んでいった。そして、女性の目の前に、何かが落ちてきた。


「あぁ、思ったより酷いな……」


 女性の目の前に現れたのは、二頭身半、全長1メートル大の小人だった。黒の野球帽、赤いポロシャツ、その上に紫のパーカー、七分丈のダメージデニムに、長方形のブラウンカラーのレザーボストンバッグ。赤いコンバースっぽい靴。小さくデフォルメされた――いわゆるSD調の表情、特に両目は、黒い豆粒のようだ。


「運が良かったね、おねいさん。がんばって駅の方角に逃げれば、とりあえず助かる確率高くなるから、急いだ方が良いよ? あそこなら、まだあいつらの目に届いていないからね」

「あ、あの――」


 女性が質問する前に、小人は海の方へ飛んで行ってしまった。怒った白い虎が、その後を追いかける。

 

「生きてる……戦ってるひとがいる……ッ!」


 女性は立ち上がり、亀裂が入って破片となった歩道のコンクリートに足を取られないように注意しながら、小人の言う通り、駅の方角へ走っていった。遠目から見て、そちらはまだ化け物の被害は出ていないようだ。


「伝えなきゃ……絶対に!」


 涙と汗と鼻水でぐちゃぐちゃになりながらも、女性は走り続ける。

 リポーターとは、真実を伝える者。

 命を賭して真実を伝えることに使命を燃やす彼女は、紛れもなくリポーターの鏡であった。


 ◇◆◇◆


 セイクリッドファントムと同化した俺はがむしゃらに動き回り、四神の目を惹きつける。今は、朱雀と青龍を素通りしたところで、人に襲い掛かろうとしていた白虎に跳び蹴りを食らわせ、ヘイトを溜めた上で逃げているところだ。

 目指すべきは、玄武のいるところ――既に炎の海となった市街地の中央だ。先着した他の神霊子がいるかどうかはわからないけど、こうして四神が好き放題出来ている現状を鑑みるに、誰かの援護は期待しない方が良いだろう。パワーの強化を優先したため、今の俺は魂をセイクリッドファントムに移している状態にある。これだと、3分という制限時間が生じてしまい、その間に四神との戦いに決着をつけなければならないからだ。


「ふぅ……ようやく、こっちにきやがったか」


 怒り狂ってこっちを追いかける白虎に、ようやく追いついてきた青龍と朱雀、そして行く手を阻むように仁王立ちする、人型ロボットみたくなった玄武。

 ここに、全ての四神が――今は倒すべき敵となった神霊が揃った。


「手間が省けて助かるぜ。なぁ、みんな?」


 指を鳴らし、あらかじめセットしておいたスキルを発動させた。


 ――スキル『ワンマンレギオン』を発動。ベースとする神霊セイクリッドファントムの分身体を発生させます。


 これまで、ぼんやりと浮かんでいたスキルの発動を知らせる言葉が、輝美の声でしっかり頭の中で読み上げられた。

 俺の周りに、四体のセイクリッドファントムが同時に出現する。しっかりと、本体である俺と同等の力を備えているセイクリッドファントム達を見た四神が、少しだけ後ずさる。ただ暴れまわるだけの乱暴者とは違うみたいで、力が強くなった分、観察眼もしっかりしているようだ。


「さぁみんな、調子はどうだ?」


 俺が問いかけると、四体のセイクリッドファントムの体から上に向かって光の柱が立ち、そこにスクリーン映像のように、少女達の姿が映し出された。

 言うまでも無いと思うが、映し出されたのは、チータ、スゥ、フーコ、シェンの四人だ。


「はい。ところで、思った以上に快適ですね、この体は」

「ん。馴染む……」

「フーコ、いつもよりかるいカンジするー!」

「オイラ的には、もうちょい良い形があるんじゃねーかって思うけどなぁ~」


 四体のセイクリッドファントムから、チータ達の思念が伝わってきた。

 猿蟹島を出る前に発動したスキル、その説明を思い出す。


 ――スキル『創造』を発動。『神霊化』に変換します。

 ――スキル『神霊化』を発動。保管した生命体を、神霊と一体化させます。


『セイクリッドファントム』、『ワンマンレギオン』の次に発動させたスキル『神霊化』の効力によって、チータ達は今、俺と同様に、セイクリッドファントムのボディと一体化している。四神を失ったチータ達が戦えるよう、一時的に俺の神霊となってもらったわけだ。セイクリッドファントムの姿をしているのは、これが俺の神霊であるというイメージが色濃く残っているからだ。


「それじゃあみんな、無理だけはするなよ。魂だけ移ってる俺と違って、みんなは体も一緒になってるから、傷はダイレクトに残るからな!?」

「問題ない」


 スゥが入ったセイクリッドファントムが、前に躍り出る。


「今のわたしは超最強」


 随分と、やる気に満ち溢れているご様子で。それは、他のみんなも同様で、それぞれが武器の金属棒を持ち、構えている。

 少女達を通じて、四神の心情を理解できた。

 四神は、防衛本能だけが働いている状態にある。共存とか恨みとか、そういった感情は欠片も残っておらず、ただその肉体に宿る本能だけで動いている。それは、ある意味自然災害と言っても差し支えない状態だった。

 チータ達自身、四神切っても切れない縁のようなものは感じている。だけど、彼らの存在が世界にとってイレギュラー……バグのような存在だというのならば、切り捨てなければならないという覚悟も、感じ取ることが出来た。

 ならば、後腐れが無いよう、ひたすら行動すれば良い。俺にとって、それは一番大事なことだと思った。それで世界を救えるなら、尚更良い。

 

 四神たちが、同時にこちらへ神力のビームを発射してきた。しかし、チータ達は同時に『バリア』のスキルを発動させ、光の盾でビームを防ぎ切って見せた。


「ふぅ……じゃあみんな、試運転はこのぐらいで大丈夫そう?」

「うん」

「いけるー!」

「おうよ!」


 少女達は互いの顔を見合わせ、同時に頷いた。


「やる気か――おっ!」


 俺が四神の不意打ちに備えていると、チータ達は自らの力で、自分の戦闘スタイルに適した姿に変化した。


「よし……成功ですね」


 チータは、全長三メートル大の青いドラゴンに変身していた。東洋の龍のような青龍とは違い、こちらは二足歩行や人間のように腕を使える、西洋の竜である。


「気が利く女のイメージ……」


 スゥは、以前にセイクリッドファントムが変身したUFOと同型になっていた。ただし、中身は女の子なので、銀色のボディはピンクに、頭には色とりどりの花で作った冠のようなものがくっついていた。

 ……俺が好きなゲームの、敵キャラがモデルっぽい。


「ねえねえおにーちゃん、フーコワンちゃんだよー! かわいい?」


 フーコは、まんま白いマルチーズになっていた。首にはシュシュのような首輪が巻かれている。……あ、よく見たら額に赤い宝石がくっついていた。この時点でただの犬じゃないけど、確かに可愛いので、笑顔で頷いて見せた。後で写真を撮らせてもらうことにしよう。


「おいにーちゃん! オイラなんか変な感じじゃね!?」


 シェンは、手足の付いた戦車になっていた。ちょっとマヌケなデザインに見えて、思わず笑ってしまった。したら、砲身をぶん回してこっちのケツをしばいてきた。


「それじゃ、いくぞ!」

「「「おー!」」」


 リーダー役のチータの号令に合わせ、少女達は四神に挑みかかった。

 チータは青龍と取っ組み合いを初め、スゥは朱雀と空中でドッグファイトを展開。フーコは白虎を相手に、犬同士が喧嘩するように転がり合い、シェンは玄武と銃火器の撃ち合いを始めた。

 殴る、蹴る、締め付ける、撃つ、回避する、ひっかく、かみつく、撃つ、耐える、殴り合う……なんだか、互いの特徴がわかっているが故に、力の均衡はなかなか崩れないように見える。

 この場合、不利なのはチータ達だ。体が小さいから、パワーで押し負けやすい。だけど、勝つのは彼女達だ。

 その理由は、俺。輝美の持っていた金翼の欠片を取り込んだことで、俺のもつ神力は、パワー、スタミナ共に飛躍的に高まった。足りない神力はこっちから供給してやれば、チータ達なら何度でも巻き返せる。

 どのくらいそうしていただろうか(5回くらいから数えるのを止めた)? やがて、埒が明かないと思ったのか、四神は集結して、その身を光に変えて、重ね合う。


「クカァー!!」


 四神の光は重なり合い、やがて一体の神霊を生み出した。赤、青、白、黒の四色に染まったカンフー服を着た、猿人類だった。全長は、二十メートルくらいはあるんじゃなかろうか?

 合体四神人がったいしじんじん――とでも名付けよう。名前はあった方が、いろいろ便利だからね。


「そっちがその気なら……!」


 俺はスキルの≪神霊化≫の効果を消す。これにより、チータ達の魂は俺の身体の中に吸い込まれていった。


『にーちゃん、急に消すなってー!』

「文句言うな、シェン。向こうが超協力プレイってんなら、こっちもそうするまでだ!」


 ――スキル『神霊化』を初期化。スキル『創造』の再使用が可能。

 ――スキル『ワンマンレギオン』を初期化。スキル『創造』の再利用が可能。

 ――スキル『創造』を発動。スキル『巨大化』に変換します。

 ――スキル『創造』を発動。スキル『神具強化』に変換します。 


 使用するスキルを調整し、今度は『巨大化』のスキルを使用する。これにより、強化された神力でセイクリッドファントムの体を巨大化させる。

 それと同時に、『神具強化』のスキルを発動。セイクリッドファントムが使っていた金属棒を別の形にデザインし直し、さらにその威力や応用性を高める発想を試みて、それを形にする。

 結果、神具は鋭利なデザインの全身鎧――に似たパワードスーツとなった。それを身に着けたことで、セイクリッドファントムが全長20メートル大の巨人へと生まれ変わった。神具の影響なのか、全体的なフォルムが八頭身となり、スリムになった。

 青い鎧をまとった、銀色の巨人。その瞳は、金翼の名を表すように金色に光り輝いていた。

 

 ――スキルのプリセットを構築。以後、『セイクリッドファントム』、『PK』、『巨大化』、『神具強化』の同時使用を、『ウルトラナイト』として設定します。


 無意識の内に、俺はこれらのスキルの組み合わせを、セイクリッドファントムのさらなる進化として認識したのか。これで、インターネット検索におけるショートカット設定の如く、新しい力を使うことが出来るようになった。

 炎の海と化した横須賀の街の中、合体四神人と目線を合わせ、にらみ合う。


 ◇◆◇◆


 ウルトラナイトの中、俺は肉体のイメージを形作った。背後に少女達の存在を感じたため、今一度戦う意志を確認する。


「みんな、一気にい、く…………………………えっ?」


 振り向いた瞬間、思わず、目を剥いてしまった。

 全員、素っ裸。生まれたまんまの姿。

 それ以上のインパクトとして、チータ達の姿がおかしなことになっていた。

 全員、大人になっていた。


「これは……肉体が精神に追いついた、ということでしょうか?」


 チータは、感慨深げに自分の身体を眺めている。身長は、165センチ程度だろうか。綺麗な素肌にすらりとした四肢、豊かな胸元と、シアンの長髪。それを、どこから取り出したのか、ゴムを使って後ろに縛った。


「ん。ようやくレディの仲間入り……」


 大人になったスゥの骨格は、概ねチータと同じに見える。だが、チータ以上に胸がデカかった。昔見たGカップのグラビアアイドルと同じくらいじゃないか? 体つきも、すらりとしてはいるが、チータと比べたら女性的な柔らかさが強調されているように見える。マゼンタの髪も豊かになり、腰まで届いている。それを、白い羽のような髪飾りで、ツーサイドアップに纏めた。


「うふふ。なんだかふわふわするね?」


 フーコは、そのまんま大きくなったってカンジだ。前のふたりが発育良過ぎるため、胸の大きさは一般的ってカンジだけど、それ以上に肉体のしなやかさは、新体操の選手を彷彿とさせる程に、しなやかかつ強靭に見える。オリンピックの選手とかウソついたら、大半の人は信じてしまうのではなかろうか?


「これは……なかなかに恥ずかしい、かな……?」


 個人的には、シェンの変化が一番著しいと思った。成長して、自分が女であることをより自覚した影響か、口調が多少丁寧になっている。セミショートの茶髪はクセがついて毛先がはねているけど、それがボーイッシュな彼女の性格にマッチしている。胸は俺の掌にちょうど納まるくらいに膨らんでいて、充分大きい。おしりもきゅっとしまって丸みのある柔らかなフォルムで、全体的な女性らしさが激増している。


 ていうか、さっきからなんなんだ俺は? 頭に浮かんだ感想が、思いっきりエロジジイじゃねえか!


「な、なんでこんなことに……?」


 誰かが教えてくれるわけでもないのに、呟かずにはいられなかった。


「そういえば、話していませんでしたっけ?」


 チータ達が、俺の身体を密着させながら、耳元で囁く。


「私達……18です。少なくとも」

「えっ?」

「つまり、もう結婚しても良い年齢……」


 スゥが、俺の右耳を唇で挟んできた。なんだか、いつも以上にアプローチが激しいというか、刺激的というか……。


「ぼ、僕達にとっても意外だけど……身体中が、キュンキュンするし……」


 そう言いつつ、シェンは俺の腕を思いきり抱き締める。


「なんか、その……はしたなくないかな? 今の僕達……」

「え? 別にいいでしょう?」


 フーコが、大人びた口調でシェンを宥めた。


「秀平兄さんだって男なんだし、何よりやっと女として見てもらえるようになったんだから」

「うん、良い傾向。やっと保護者モードから狼モード」

「フーコもシェンも、思い切り良過ぎだ! 僕達はその、まだ子どもを産むってことがどういうことかも知らないんだし……うぅぅぅぅぅ!!」

 

 フーコとスゥがすんなりと現状を受け入れているのに対して、シェンは戸惑いを隠せず、真っ赤になって俯いている。なんだか、普段とは全然違う性格になってておもしろい。おかげで、少しだけ冷静さを取り戻せた気がした。


「あぁもう、みんないい加減にしてください! まだ戦闘中なんですよ!?」

「あ、あらー!?」


 チータが怒鳴った瞬間、前のめりに体を倒された。チータとシェンに両腕を取られているせいで、顔面から倒れた。精神の世界――みたいな所にいるせいか、痛みは感じなかったのが救いだ。みんなを宥めながら束縛を解かせ、体を起こす。

 すぐに、合体四神人が脚を上げている姿が見えた。どうやら、蹴り飛ばされたらしい。


「あぁみんな。とりあえずこの話はあとでゆっくりするとして、今は目の前の敵を倒すとしよう」

「秀平さん。成長した私の力、存分にお使いください」


 チータが祈るように手を組むと、彼女の両手の周りに白い毛糸のようなものが現れ、俺の身体に巻かれる。それを通じて、彼女のもつ神力が俺の身体に蓄えられる。


「シュウ、がんばろ」

「兄さん、一緒に戦うからね!」

「僕たちの命、あなたに預けます」


 スゥ、フーコ、シェンの三人も、チータと同様に手を組み、こちらに神力を通す糸を託した。それにより、俺の中の神力がさらなる強化を果たす。


 幾重にも巻きつけられた糸が、俺の全身を覆う。そこから、俺の全神経は完全にウルトラナイトとシンクロした。


 ◇◆◇◆


 視界に飛び込んだのは、こちらの胸を踏みつけながら嗜虐の笑みを浮かべる合体四神人の姿だった。どうやら、女達が痴話喧嘩している隙をついて、こちらに攻撃し続けていたらしい。

 だけど、全然痛くない。怖くない!


「いい気になんなよ、オラァ!」


 俺は腕を振るい、合体四神人を後退させた。ゆっくり立ち上がり、体の調子を確かめる。……うん、ボディは違えど、普段通りに体は動く。

 お膳立ては済んだ。


「こい」

「キィヤァー!!」


 合体四神人は雄たけびを上げながら、こちらに連撃を仕掛けてきた。拳と蹴り技のオンパレード。音速に達しているかも知れない速度で叩きこまれる無数の打撃を前に、俺は為す術も無く受け止めてしまう。


「ゴギャァー!?」


 しかし、それでよかった。むしろ相手が不憫でならない。

 合体四神人の攻撃は、ウルトラナイトの装甲に傷一つ付けることができなかった。逆に、拳から血を流している。ウルトラナイトの全身を構成する装甲は、神力を注ぐことでその硬度を増していく性質がある。今の攻防は、ダイヤモンドを素手で砕こうとするくらいの暴挙であり、愚かな行為だった。


「さて、始末をつけるか」


 俺は神具であるパワードスーツの腰部に設置された棒状の道具を手に取る。それは、伸縮が可能で、槍の長さに達したと同時に、銀竜の牙を神力で加工することで、棒の先端に大型の刃を形成した。

 ウルトラナイトの武器は、セイクリッドファントムが使う金属棒の先端に巨大な刃がついた――ていうか、偃月刀だ。それを両手で構え、振り下ろす所作を取ろうとしたところで、合体四神人が両手から火炎弾、水弾、風の弾丸、石弾を連発してきた。あえて真正面から受け止めるが、どの攻撃もウルトラナイトの装甲を傷つけることは出来なかった。

 ただし、このまま受け止めるのでは芸がないと思ったので、強化した超能力による斥力場を展開する。すると、反射された数々の弾丸は、合体四神人の肉体に向かってUターンし、術者自身の肉体を削り取っていく。


「今度はこっちの番だな」


 相手の首めがけて、偃月刀を振り下ろす。しかし、合体四神人もしぶとく、こちらの攻撃を紙一重で回避した。しかし、地面についた偃月刀は、縦一文字に地面を割り、開いていく。


「ワギャギャ!?」 


 突如、足場が動いたものだから、合体四神人は両脚を広げられてしまい、両腕をグルグルと振り回して体勢を崩さないようバランスを取る。滑稽な姿だったけど、見て楽しむようなドSな趣味はないので、そのまま敵の横腹を蹴り飛ばしてやった。地面に落ちた木の枝を膝で折った時と同じような感触がしたと同時に、合体四神人が地面に転がっていく。


「ガギャ……ウギイイイ~……!」


 合体四神人は、上着を脱いで両手を上げる。降参のポーズ、といったところだろうか?


「もう、戦う気はないってか?」

「ウギ! ウギィー!」


 合体四神人は、涙目で頷いた。


「この世界から、出て行く方法はあるのか?」

「ウギィー……」


 合体四神人は、俯き、黙り込んでしまう。どうやら行く宛なんてないらしい。

 だけど、彼らには帰る場所なんてない。こいつらがいた場所が無くなったから、今の世界が出来上がったんだから。

 俺に輝美との出会いをくれた。

 チータ達を、ここまで連れてきてくれた。

 そういう意味では、こいつらには感謝している。

 でも、悲しいな。こいつらはただ生きていたいだけなのに、願うことすら許されない。この世界の都合が、システムが、それを許さないんだ……。

 哀れだと思う。こいつらこそ、本当の被害者なのかも知れない。

 だけど、こいつらを殺さなくては、俺達の世界が壊れてしまう。

 戦っていてわかった。この合体四神人の力が発揮される度に、世界がおかしくなっていくのを感じた。直感だけど、それを積み重ねてしまうと、確実に世界が作り変えられ、今いる生物を一掃してしまう。だから、このままじゃいけないんだ。

 自然界は、弱肉強食の世界。

 俺も、命を奪いながら生きている事実を、そのために戦い、自らを傷つけ、罪を背負う恐怖から、目を背けてはいけないんだ。

 生きるっていうことは、そういうことなんだ。


「ごめん……ありがとう」


 俺は、偃月刀で合体四神人の身体を×の字に切り裂き、トドメとして、掌から神力を熱エネルギーに変え、神力光波熱線しんりきこうはねっせん『ブラストストレート』を放った。七色に輝く光線は、合体四神人の胸に刺さり、貫いた。破壊の力を受けた合体四神人は、元の四体の神霊に分離し、神力の光を浴びて消えていく。


「青龍、お疲れ様でした……」

「朱雀、ありがとね……」

「シロちゃん、ばいばい……」

「玄武、忘れないよ。君のこと……」


 四神は、光の粒子となって、ウルトラナイトの肉体に溶け込んだ。最後は、ちょっとだけ笑っていた気がした。ただし、少しだけ嫌味を利かせた、ニヒルな笑みを。そんな、素直じゃないのか、こちらを恨んでいるのかよくわからない結果に、思わず苦笑した。

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